稀望の宇宙 凱旋 あとがき
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あとがきにかえて

 2008年はどんな年だったか覚えていますか?
正直言うと俺は全然覚えていません。
あ、オバマが大統領になったのが2008年なんだ。
アーサー・C・クラークが死んだのも2008年かあ。
秋葉原の通り魔もこの年かあ。
 今から12年前のその年の7月26日に
「稀望の宇宙-きぼうのくらやみ-」の連載をスタートしました。
実はこの作品は2つの別々の構想の作品を合体させたものなのです。
一つは未来の学園を舞台にした差別がテーマの社会派もの、
そして一つが宇宙を舞台にしたスペースオペラです。
どっちも描きたかったけど同時に二つはきつそうだし…
と頭をひねらせて思いついたのが「この二つ混ぜちまえばいいんじゃね?」
でした。今思えば非常に短絡的な発想ではありましたが、設定を調整すると
なんとも上手く組み合わさりました。そして互いの構想が共に高め合い、
テーマもより強固に打ち出すことができました。
 話が進むに従ってキャラもどんどん勝手に動き出すようになり、
物語が生き生きと実体を持って広がっていくのを肌で感じるようになりました。
その中で「これを一つの物語として終わらせるのは惜しい」と考えるようになり、
続編の構想もどんどんふくらんできました。
当初考えてた続編は「キボとマレが割とお気楽な雰囲気で宇宙を旅する一話完結の
ロードムービー的なもの」だったのですが、設定を練っていけばいくほど
そうそうお気楽なものには収まらないという考えに行き着くようになり、
とりあえず構想を洗練させる期間が欲しかったので、「稀望」終了後しばらく
短編やノベルをやってる間に構想を固めようとしたのですが、そのノベルによって
構想がガチッガチッと形になっていったのです。
従ってキボシリーズ2作目の「聖剣の刃は血の涙に染まる」は
「稀望」の続編であると同時にノベル作品
「頂-ただひとり-の編-あみ-」の続編でもあります。
ただ、「聖剣」は構想は固まったもののストーリーが難産でした。
キャラの関係性もかなり複雑だしキャラの陣営間の行き来も複雑で
相関図に表すのも難しいですし、物語は決してプロット通りに進まないので、
変更がある度にキャラの現在の立ち位置を割り出すのが大変で、
今でも矛盾がどっかにあるんじゃないかと割と気が気じゃありません。
ですが、「聖剣」を描くことによって、シリーズのその後がかなり具体的に
見えてきました。実際、シリーズ3作目「竜と戯る星」そして今作「凱旋」の
ストーリーの流れの大部分は2作目を描いてる時に想定したそのままです。
 「聖剣」の連載期間中は東日本大震災があったりしました。
連載を続ける中で災害のニュースは度々あり、自身の無力さを感じつつも
何らかの助けになればと思いながら描いてましたがどうなんでしょう。
個人的にも色々ありつつ「竜」「凱旋」と続き、そして2020年10月9日
キボシリーズは完全終了となりました。
終わり方が正直、「これで終わりかよ」みたいな感じではありますが、
自分がキボという少女に負わせた業の決着の付け方としてはこれ以上無い終着と
考えています。
また、キボシリーズ全体で見ればキボの物語で間違いないのですが、
「稀望の宇宙」というタイトルを冠した1作目と4作目についてはアラの物語でも
あります。アラ自身の登場はそう多くはありませんが、
アラを巡る因果がキボの人生を狂わせ、それが宇宙に破壊的結果をもたらそうと
している、これはアラの業でもあります。
まあ、そこら辺の解釈は読者の皆様に委ねるべきですね…

 
 物語の最後に言った通り、これは宇宙の片隅で起きた些細な出来事なのです。
現代でも、様々な重大な出来事が起こりつつもそんなことはどこ吹く風で
自らの問題に精一杯取り組むのがやっとな人も大勢います。
物事の大きさなんてものは結局主観でしか語れないことです。
2020年10月現在、地球上の人類はコロナウイルスという危機に晒されていますが、
遠く何億光年と離れた場所では恒星が爆発し周囲の惑星は
跡形もなくなっているかもしれません。
たとえ地球上でも、コロナとは関係なく別の苦しみで
死ぬ思いをしている人もいることでしょう。
全ての人、あらゆる生命、万物、森羅万象は、それぞれがそれぞれの日常や戦場で
日々を凌いでいます。
何事もなくそこに存在しているものなどこの世には一切ありません。
即ち、何かを微々たるもの、些末なことと評価することはこの世の森羅万象を
矮小なものと断ずるに等しい行為と言えるでしょう。
あらゆる出来事は小さいことであると同時にかけがえのないことである、
眼前のあらゆる事象に敬意を持ち一切を矮小化しない、そういう心を持ちたい、
そういう願いを込めて今後も作品作りに取り組んでいきたいです。
2020年10月9日 様々なことで荒れ狂う地球上より

2011年カレンダー企画より

 
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