◆ その日の晩、東子さんが私の部屋に来た。 「さっきの事、話しとかないとね」 と、言った東子さんは次の瞬間、ぎょっとした顔で 「おば様…!?」 私の隣にはおばあもいた。 「黙らっしゃい! 私達には何も知らせないとは、無礼千万とはこのことだ!」 「東子さん、おばあ、怒ってるよ」 「み… 見ればわかります… っていうか、思考の痕跡を隠す事ができるとは、さすが…」 「御託はよろしい、説明を」 「はい…」 背の高い東子さんが、小さくなってちょこんと座り、事の経緯を説明しだした。 以前、東子さんが、ある組織からスカウトされたって話していたけど、 それが、学園に資金を出した組織らしい。 その組織は、公にされていない公的機関らしく、表向きに、営利企業をいくつか作って活動しているらしく、 その活動内容は、異能や超常現象の研究だとか。 公的機関だから、その活動資金の多くは国民の血税で、営利企業を抱えているとは言え、そのほとんどは赤字らしく… で、その組織が、全国から、異能や、それに準ずる特殊な才能を集めるため、学園を創ったのだという。 で、宮田家の関わりとか、東子さん自身の研究とか、教員免許を持っているとか、色んな理由が重なって、 東子さんが、学園の教員としてスカウトされたというのが真相らしい。 「ってことは、あの学校に来ているのは、皆、異能者とかそういう類の人達?」 「いや、そういう人を積極的に受け入れはするけど、一般入試だってあるし、大部分が普通の人だよ」 「で、そういう人を集めてどうするの?」 「…そこまではわからないな… 組織の実験台とかそういう怪しげな目的では無さそうだけど…」 「…ちょっと怖いな…」 「そうだね…」 「前田を思い出しちゃう」 「…確かにね… だけど、あいつとは違うと信じたいな。あいつは、人を無理やり能力者に仕立てあげて 結果的に死なすんだ。そういうのとは絶対違う」 「私もそう信じたい」 その前田も、あれ以来、何故か音沙汰が無い。だけど、水面下で何かしているんじゃないかという恐怖心はある。 あれは、そういうしたたかさを持った男だ。 「!! そうだ、もしかしたら、前田がらみの能力者が学園にいるなんてことは無い?」 「!!」東子さんが、明らかに「その手があったか!」という顔をした。 「…今まで気がつかなかったの…?」 「それに近い発想はあったけど… なるほど、やっぱ編は頭いいね」 「褒めても何も出ません」 「はーい。 だけど、前田がもし、この学園の性質を知ったとしたら、 逆に、あいつの活動の中心地になり兼ねないな。それは盲点だった…」 「組織の中で、前田みたいな奴がいるっていう認識は?」 「それが、無いとは言えないんだ。妙に、能力の悪用っていうキーワードには敏感な連中が多くってね 学園の創立の理由として、能力使用の方向性とか抑制とか、そう言ったこともあるんじゃないかな、と」 「ふーん… だけど、そんな怪しげなとこに、私を入れようとしたんだね…」 「それは、ほんと、ごめん… だけど、一応私の目の届く範囲だと思ったから… っていうか、あの組織だって、宮田家の跡取りに何かしようとは思わないでしょ?」 「…」 「いや、マジ、そんな目で見ないでください… 反省してます」 「お嬢様、彼女も随分と反省している様ですし、許してあげてもよろしいのでは?」 「…ま、おばあがそう言うなら。東子さん、顔を上げて」 東子さんの目が、眼鏡越しにもウルウルしているのがわかった。 私の中ではかっこいい東子さんの、可愛らしい一面を見た気がして、ついプッと噴き出してしまった。 「ちょっと、何で笑うの?」 「だって、東子さんウルウルしてるんだもん!」 「え!? ちょ、私、泣いてなんて、って、これ、汗だから! いや、ほんと、汗!」 結局最後は馬鹿話になってしまったが、その一方で、私は心の中に強い不安を覚えるのであった。 前田は、きっと学園に絡んでくるはずだ。 いや、すでに前田の手の者が…?
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