その日の晩、東子さんが私の部屋に来た。

「さっきの事、話しとかないとね」

と、言った東子さんは次の瞬間、ぎょっとした顔で

「おば様…!?」

私の隣にはおばあもいた。

「黙らっしゃい! 私達には何も知らせないとは、無礼千万とはこのことだ!」

「東子さん、おばあ、怒ってるよ」

「み… 見ればわかります… っていうか、思考の痕跡を隠す事ができるとは、さすが…」

「御託はよろしい、説明を」

「はい…」

背の高い東子さんが、小さくなってちょこんと座り、事の経緯を説明しだした。

以前、東子さんが、ある組織からスカウトされたって話していたけど、

それが、学園に資金を出した組織らしい。

その組織は、公にされていない公的機関らしく、表向きに、営利企業をいくつか作って活動しているらしく、

その活動内容は、異能や超常現象の研究だとか。

公的機関だから、その活動資金の多くは国民の血税で、営利企業を抱えているとは言え、そのほとんどは赤字らしく…

で、その組織が、全国から、異能や、それに準ずる特殊な才能を集めるため、学園を創ったのだという。

で、宮田家の関わりとか、東子さん自身の研究とか、教員免許を持っているとか、色んな理由が重なって、

東子さんが、学園の教員としてスカウトされたというのが真相らしい。

「ってことは、あの学校に来ているのは、皆、異能者とかそういう類の人達?」

「いや、そういう人を積極的に受け入れはするけど、一般入試だってあるし、大部分が普通の人だよ」

「で、そういう人を集めてどうするの?」

「…そこまではわからないな… 組織の実験台とかそういう怪しげな目的では無さそうだけど…」

「…ちょっと怖いな…」

「そうだね…」

「前田を思い出しちゃう」

「…確かにね… だけど、あいつとは違うと信じたいな。あいつは、人を無理やり能力者に仕立てあげて

結果的に死なすんだ。そういうのとは絶対違う」

「私もそう信じたい」

その前田も、あれ以来、何故か音沙汰が無い。だけど、水面下で何かしているんじゃないかという恐怖心はある。

あれは、そういうしたたかさを持った男だ。

「!! そうだ、もしかしたら、前田がらみの能力者が学園にいるなんてことは無い?」

「!!」東子さんが、明らかに「その手があったか!」という顔をした。

「…今まで気がつかなかったの…?」

「それに近い発想はあったけど… なるほど、やっぱ編は頭いいね」

「褒めても何も出ません」

「はーい。 だけど、前田がもし、この学園の性質を知ったとしたら、

逆に、あいつの活動の中心地になり兼ねないな。それは盲点だった…」

「組織の中で、前田みたいな奴がいるっていう認識は?」

「それが、無いとは言えないんだ。妙に、能力の悪用っていうキーワードには敏感な連中が多くってね

学園の創立の理由として、能力使用の方向性とか抑制とか、そう言ったこともあるんじゃないかな、と」

「ふーん… だけど、そんな怪しげなとこに、私を入れようとしたんだね…」

「それは、ほんと、ごめん… だけど、一応私の目の届く範囲だと思ったから…

っていうか、あの組織だって、宮田家の跡取りに何かしようとは思わないでしょ?」

「…」

「いや、マジ、そんな目で見ないでください… 反省してます」

「お嬢様、彼女も随分と反省している様ですし、許してあげてもよろしいのでは?」

「…ま、おばあがそう言うなら。東子さん、顔を上げて」

東子さんの目が、眼鏡越しにもウルウルしているのがわかった。

私の中ではかっこいい東子さんの、可愛らしい一面を見た気がして、ついプッと噴き出してしまった。

「ちょっと、何で笑うの?」

「だって、東子さんウルウルしてるんだもん!」

「え!? ちょ、私、泣いてなんて、って、これ、汗だから! いや、ほんと、汗!」

結局最後は馬鹿話になってしまったが、その一方で、私は心の中に強い不安を覚えるのであった。

前田は、きっと学園に絡んでくるはずだ。

いや、すでに前田の手の者が…?  

 

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