頂-ただひとり-の編-あみ-

第八話

数週間も経たず、編は帰って来た。

憔悴しきった顔で、久しぶりに会えた喜びも、分かち合えず、

「心配したんだぞ!」の言葉にも薄い反応で、

こちらは、ただただ、どうしたらいいのかわからなかった。

結果は、まあ、うまくいくとは思ってもないが、

あの様子では、ただの惨敗っていう事でも無さそうだ。

彼女の部屋に様子を見に行っても、物音ひとつ無く、

すすり泣きもしなければ、寝息も無い。

「まさか、馬鹿なことをやったんじゃ…!」

急いでドアを開けると、

正座をし、微動だにしない姿があった。

「編…?」

編は薄く目を開くと、一言

「私は、救えなかった」

「どういうことだ?」

「前田が目をつけた人物に、前田より早く会えた。

だけど、結局彼女は、前田の能力で死んだ」

「…だから、救えなかったと?」

「…」

「だから、自分が無力と感じて、ノコノコ戻ってきたってわけだ。

あ、私に甘い言葉は期待しないでよ。こういうことズバッと言って嫌われちゃう特技があってね」

「知ってるよ、あなたに甘ったれるために戻ってきたわけじゃない」

「…じゃあ、何のため…?」

「知らなきゃいけないことを、私は何も知らないみたい」

「まあ、子供だし」

「大人になったって、普通に生きていれば、知ることは無いであろうこと」

「例えば?」

「あなたが知らないこと」

「はは、一本取られた気分だ、そりゃ、この年になっても、知らないことはたくさんあるさ

だけど、私だって、まだ若いしねぇ」

「ふふ、東子さんは、昔の東子さんのままだね」

「それ、褒めてんの?貶してんの?」

と言いつつ、編の顔に笑顔が浮かんだことが嬉しかった。

つい、そのことを編に悟られ、編の笑顔が深みを増す。

私も、やれやれと微笑んで下を向く。

「だけど、長期不在から帰って来たのに、挨拶がなってないぞ」

「ごめんなさい…何となく、合わせる顔が思いつかなかったから…」

「真面目だねえ…それがあんたのいいところなんだけどね、

で、何を知りたいんだ? 私でも…そうか、わからないことか」

「神のみぞ知る」

「…やれやれ、あの儀式、覗かせてもらったけど…

なんていうか…あ、気ぃ悪くしたらごめんね…

あそこまでやって、正直、本当に得られるものあるの?」

「…それは私が一番知りたいよ…

結局、あの神様の欲望を満たすためだけの儀式みたいなものだよ」

「古今東西、人間のやることは、変わらないねえ…神様への生贄みたいなもんか

あ、ほんと、ごめん…」

「いいよ、そういう認識持ってくれる人がいた方が、心強い」

「…ま、一応、カウンセラーだし…」

「ありがと、いい仕事してくれたね」

「まいどあり」  

 

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