◆ 連絡を聞きつけ、刑事さん達がやって来た。 「お嬢さん、怪我は?」 人の体を覗き込もうとするので、わざと大げさに隠す。 「お嬢さんは、協力者なんだぞ、善意を無下にする様なことをすんな」 深緑の刑事さんが、紺色の刑事さんをはたく。 「いってぇ… 冗談ですよ! ほら、最近打ち解けてきたし、ね」 そう言って、紺色の刑事さんがにっこりほほ笑んできたので、こっちははにかんだ笑いで受け流す。 「ほら、お嬢さんだって困ってるじゃねえか」「あっれぇ、おっかしいなあ…」 二人のやりとりが面白かったので、つい噴き出す。 紺色の刑事さんがしたり顔で、深緑の刑事さんの顔を見る。 「へっ、ガキにゃあかなわねえよ、だけど、お嬢さん、無茶はいけねえぞ」 「はい、すみません…」今回の事は、刑事さん達には何も言っていなかった。 「ところで、お嬢さん、前田が来たのか?」 「! どうして?」 「あいつが現れたところにゃあ、なんつーか、こう、うまく説明できんが、何か雰囲気が違うんだ」 長年の刑事の勘というやつであろうか? それとも、この刑事さんは元々霊感が強い人なのかもしれない 「…」 「そんな顔してんじゃねえよ、心を読めない俺達にもバレバレだ、それに、可愛い顔がもったいねえ」 前田の名を聞くと、どうしても全身に緊張が走る。 「あいつとやり合わなかったのは、偉いぞ」 「…彼女は… どうなりますか?」 刑事さんの心を読んで、大体わかってはいるが、一応… 「…聞かんでもわかるだろ? 俺だって口に出したくないことの一つや二つ、あるさ。 それにまあ、悪い様にはしねえと思うぞ、まあ、あっちに行ってからの事は俺にはわからんが」
◆ 気付けば、日が西に向かい始めている。 黄色い空気が、目にまぶしく映える。 夏の初めの一連の事件、前田と出会った者達は、生きる道を求めた結果、死を自らに引き寄せた。 助かった者もいれば、そのまま死んでいった者もいる。 助かった者も、今後どの様な人生を歩むのかわからない。 私は、死の道を選んだはずだった。なのに、今、生に満ち溢れている。 「焦る者」、彼等を前田が求める理由。彼等に力を与える理由。 何一つわかりはしない。 「生きる意志のはけ口…?」その言葉が口から出た。 彼等は、生きる意志を爆発させ、一気に命を散らすために力を与えられたのではないか? 彼等は、生きていることそれ自体に意味や価値を求めていた。 だが、前田は、生命を目的を果たすための手段にするための方法を提示した。 そして、彼等は、自他を問わず、生命を蹴散らした。生命そのものの価値を、目的の価値に変換して。 前田は、恐らく彼等に告げたであろう、「生命とは手段であり、目的と結果を得るための通貨なのだ」と。 だけど、そんなことをして何の意味がある? 生命を手段として用いている類の人間なんて、この世界に腐るほどいる。 今更、そんな人間を数人増やしたところで、何が変わる? 世の中のあるべき姿を見極める、と前田は以前言った。 生命そのものに価値を見出さない世界こそがこの世のあるべき姿だとでも? この世界に溢れる生命全てが、その生命存続そのものには価値を見出すべきではなく、 全てが、目的にのみ費やされるべきだと? だとすれば、生命そのものの目的って? 何やら、スケールの大きな考えに至ってしまった… 前田の考えることなど、わかるもんじゃない、わかってたまるか。 帰りの車の中、落ちていく日と、西日の反射で輝くビルを眺めながら、 夏の只中に向かうこの世の中の形をひたすらに想像していた。
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