◆ 「刑事さん!」 紺のスーツの刑事さんが見張っている場所に向かうと、それはいた。 白い、猫の耳がついた様な、だけど、のっぺりした笑顔がデザインされたお面を被り、 黒いローブの様な装束を着た、異様な姿の人。その手には、紺のスーツの刑事さんの首根っこが掴まれていた。 「!」 刑事さんは、まだ息をしている。殺されてはいない。 こいつは何者?思考を読んでみる。 「…結社の人…? 殺し屋… 銀…? 私に、警告を与えに来た…?」 それしか読み取れない。この人の精神のもっと深い所に、何故か潜り込めない。 そういう訓練を受けているのだろうか? 「お前の特性は知っているよ、色々調べたからな。そうだ、お前を殺す気は無いが、 『白』に手出しをするならば、話は別だ」 「今のところ、そのつもりは無いよ」 「なら、いいんだがな…」 そこへ、深緑のスーツの刑事さんが駆けつけてきた。 「貴様、そいつを離せ!」 「言われなくとも。依頼の無い殺しはトラブルの原因だからな」 そう言って、『銀』は、刑事さんを地面に落とした。 「ゲフッ!」 刑事さんが血を吐く。多い量ではないが、手ひどくやられたらしい。 「ああ、『赤』の奴が、お前の近辺をうろついている。よろしく言っといてくれ、 現状では、『赤』を殺そうという動きは無いことも伝えといてほしい」 「あなたが言ったら?」 「殺す気が無いのは、組織の方の話だ」 「…」 深緑の刑事さんが叫んだ。「貴様、このまま俺が逃がすと思っているのか!」 「おおっと、お前の相棒は、まだ、俺の間合いの中だぞ?」 「ぐぐ…」深緑の刑事さんは、歯を食いしばって、飛びかかりたいのを抑える。 「身内に優しいのは恥じゃない。別に俺を取り逃がしたからって気に病むことはないぞ。 むしろ、俺に遭遇できたんだ、栄誉な事だと思え」 そう言って、『銀』は素早く走り去って行った。 深緑の刑事さんはそれを追いかけるが、数分後、黒い服の様なものを持って戻って来た。 「収穫はこれだけか…どうせ、指紋も汗もつかない様にしているんだろう。 見ろ、一瞬で着脱できる様にしてある。あの下に何を着ていても不思議じゃあ無いからな。 むしろ、こんな変な格好の印象が残ってちゃあ、奴の正体は見極められん。 人の心を読むのが上手いお嬢様なら、どうだ?」 「残念だけど、あの人は特殊な訓練を受けているみたい。 多分、任務や、特別な行動を取っている時と、平常時では働く精神の部位が違っていて、 それ以外の部分は読み取れないと思う」 「器用なやっちゃな」 「…あ、気付いたみたい」 「先輩…すんません…」 「ああ、まったくだ、女の子のひざまくらなんてうらやましいぞ、そこを早く譲れ」 「こればっかりは、譲れませんよ…編さん、ごめんなさいね、もう少しいいっすか?」 「はいはい、いいですよ、減るもんじゃございませんから」 私は少しあきれながら、少しだけ「ユキ」さんのことが気になった。 結社は、彼女をどうするつもりなんだろう…?
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