「刑事さん!」

紺のスーツの刑事さんが見張っている場所に向かうと、それはいた。

白い、猫の耳がついた様な、だけど、のっぺりした笑顔がデザインされたお面を被り、

黒いローブの様な装束を着た、異様な姿の人。その手には、紺のスーツの刑事さんの首根っこが掴まれていた。

「!」

刑事さんは、まだ息をしている。殺されてはいない。

こいつは何者?思考を読んでみる。

「…結社の人…? 殺し屋… 銀…? 私に、警告を与えに来た…?」

それしか読み取れない。この人の精神のもっと深い所に、何故か潜り込めない。

そういう訓練を受けているのだろうか?

「お前の特性は知っているよ、色々調べたからな。そうだ、お前を殺す気は無いが、

『白』に手出しをするならば、話は別だ」

「今のところ、そのつもりは無いよ」

「なら、いいんだがな…」

そこへ、深緑のスーツの刑事さんが駆けつけてきた。

「貴様、そいつを離せ!」

「言われなくとも。依頼の無い殺しはトラブルの原因だからな」

そう言って、『銀』は、刑事さんを地面に落とした。

「ゲフッ!」

刑事さんが血を吐く。多い量ではないが、手ひどくやられたらしい。

「ああ、『赤』の奴が、お前の近辺をうろついている。よろしく言っといてくれ、

現状では、『赤』を殺そうという動きは無いことも伝えといてほしい」

「あなたが言ったら?」

「殺す気が無いのは、組織の方の話だ」

「…」

深緑の刑事さんが叫んだ。「貴様、このまま俺が逃がすと思っているのか!」

「おおっと、お前の相棒は、まだ、俺の間合いの中だぞ?」

「ぐぐ…」深緑の刑事さんは、歯を食いしばって、飛びかかりたいのを抑える。

「身内に優しいのは恥じゃない。別に俺を取り逃がしたからって気に病むことはないぞ。

むしろ、俺に遭遇できたんだ、栄誉な事だと思え」

そう言って、『銀』は素早く走り去って行った。

深緑の刑事さんはそれを追いかけるが、数分後、黒い服の様なものを持って戻って来た。

「収穫はこれだけか…どうせ、指紋も汗もつかない様にしているんだろう。

見ろ、一瞬で着脱できる様にしてある。あの下に何を着ていても不思議じゃあ無いからな。

むしろ、こんな変な格好の印象が残ってちゃあ、奴の正体は見極められん。

人の心を読むのが上手いお嬢様なら、どうだ?」

「残念だけど、あの人は特殊な訓練を受けているみたい。

多分、任務や、特別な行動を取っている時と、平常時では働く精神の部位が違っていて、

それ以外の部分は読み取れないと思う」

「器用なやっちゃな」

「…あ、気付いたみたい」

「先輩…すんません…」

「ああ、まったくだ、女の子のひざまくらなんてうらやましいぞ、そこを早く譲れ」

「こればっかりは、譲れませんよ…編さん、ごめんなさいね、もう少しいいっすか?」

「はいはい、いいですよ、減るもんじゃございませんから」

私は少しあきれながら、少しだけ「ユキ」さんのことが気になった。

結社は、彼女をどうするつもりなんだろう…?  

 

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