ぬっと現れた堂座に、彼女が一瞬たじろいだ。

「…えっと… あの…」

さっきのあっけらかんとした雰囲気が、がらっと変化した。

「堂座、顔怖すぎ。この子、明らかに怖がってるよ」

冗談で和まそうとしたけど、堂座はそれには答えず、

「魔法か… そんなもので、誰が幸せになるのだろうな…」

「えっと… あの… そ、その… 冗談なんです… ほんと…」

! もしかして、さっきまでのは演技だったのかも?

それを聞こうとすると、彼女の目に涙が溜まっているのがわかった。聞くまでもない。

「ごめんなさい… ああいうこと、言っとけば、大体の人は気味悪がって近寄らなくなるし、

それでも、私のことを好きになってくれるっていうなら、本当の友達になれるし…」

変な子を演じるのは彼女なりの防衛策であったということか…

彼女もまた、堂座の言う、「焦る者」に間違い無いらしい。

「だが、魔法への憧れは、嘘だと言うのか?」

堂座の質問に、彼女は、唇をキュッと締めて、うつむく。

何とも言えない表情だ。さっきの彼女からは全く想像できない、精悍さをも持っている。

「魔法で、人を救うことはできないんですか?」

「できなくはないだろう、どんな能力も、使用者の使いようで、色んな結果をもたらすものだ」

「私次第?」

自分が魔法使いか何かになるという前提の考え方はそのまんまらしい。

「お前が魔法を使うのなら、多くの部分でお前次第だ。だが、能力を使用することのもたらす結果は、

その時の状況に左右される。スポーツで考えてみればいい。

スポーツは、必ずしも当人の努力の結果が全てではない。他の選手の力量、その日の天候、

審判が公正かどうか、オーディエンスのマナーや熱意もあるいは、結果に関係してくるかもしれない」

「私の自由にはならないの…?」

「お前に与えられる力、その行使は、お前の自由だ。

つまり、お前に投げられた球を、お前はどう受けてもいい。受けた球をどこに投げ返してもいい。

実際のスポーツならそうはいかんが、お前に与えられる能力は、お前が自由に扱っていい。

だが、その結果、お前が勝つのか、相手に点が入るのか、それはわからん、そういうことだと思ってくれ」

「…」

彼女はじっと考える

「お前は、誰かを幸せにするために、『自分が魔法を使いたい』らしいが、

何故、『幸せにしたい誰かを幸せにする』ことを直接望まない?」

「!」

「お前の演技は、まだ終わっていなかった様だ。

お前は、『他者を幸せにしたい優しき者』を演じる『他者を幸せにして恩を売りたい利己主義者』だ」

「…」彼女がうつむく。

「堂座…」思わず、割って入る。

「だがな、認めることだ、人は多かれ少なかれ、そんな利害の計算をしているものだ。

それすらできないなら、この世から善行と呼ばれるもののほとんどが消えてなくなる。

だが、善行ですら、利害で測る世の中ではあるが、それで実際助かっている者だってある。

まずは、それを知ることだ。それを知らなければ、そうでない世の中を創りだすことなどできん」

「あなたは、世界を創りたいの?」

その質問に対し、堂座は、ただ空を見上げるだけだった。  

 

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