◆ 再び、快楽の渦へ。 今まで、どれほど、この渦に飛び込んできたのか… 思い出す気にもなれない。 だけど、今ほど、自分にとって必要だと思える神依りも無かっただろう。 体を通り過ぎる快楽の塊など、もはや、快とも不快とも思わず、気にも留めないうちに通り過ぎていく。 「やあ、また会えたね」 「あなたにもらった力など、使ってはいないんだから、因果は狂ってないでしょ?」 「一本取られたな。だけど、待っていたことは確かだよ。わかっていても、君が来るのは待ち遠しい」 「あんたじゃなけりゃ、素敵なセリフなんだけどね」 「ふふ。さあ、余計なことなど忘れて、私と楽しもう」 「ふざけんな、下手に出りゃ調子に乗って…」 「はは、冗談だよ。きみはかわいいから、からかいたくなる」 「…っざけんなってんだろ!」 私を覆う光の束が、赤黒い血の渦になる。 「!?」私は、一瞬、なんだかわからなくなる。 血の渦が、再び光になる。 「それが、君に与えた力さ。今のは、君の中の鬼が発現したんだね。 鬼は、強い怒りや、感動など、直接心に訴える感情によって呼び覚まされる。 だけど、それは、彼等を完全に覚醒させるにはあまりに弱い力さ。 そこで、私の与えた力が、彼等に、さらに進んだ覚醒を与えるんだ」 「で、この力が何の役に立ったっての? 何の力も発揮すること無く、彼女の死をむざむざ見送った! 私に何ができたっていうの!?」 「君は、私に答えを求めに来たのかい? 前田は言っていたろう? 私に答えを求めてはならない、と まあ、ここまではっきりした物言いではないだろうがね、彼の場合」 「あいつを…知っているの?」 「ふふ…まあ、それはいいじゃないか 君は、別に私から何かを聞き出したくて来たわけじゃない。 力を返しに来たわけでもない」 「ええ、私は、あなたの力により、鬼とたたら、ふたつの力を解放できる。 つまり、私は、あなたと同等の力を持っている。それも二つ」 「くっくっく…」 「私は、世界を変える力を持っていると言ってもいい」 「そうだね、鬼とたたらは、君の世界を創世したのだからね」 「聞くけど…この力を私に託したということは…この力でこの世界がどうなろうと あなたは関知しない、ということ?」 「そうだよ?それが?」 「あきれた…まあ、あんたが、この世界の一切に責任を持つつもりも無いことは承知してたけど」 「私のことをよく理解していてくれて何よりだ」 「だけど、他の依り代ならば、与えてくれた?」 「いや、それは無いな。はっきり言って、他の依り代では、面白くなさそうだ」 「…そういうことか」 「そういうことだよ、つまりそれが、『頂』ということだ。 君が世界の支配権を握る巫女なのだ」 「ありがとう、何だか、初めて、あなたに聞きたいことが聞けた気がする。 いいよ、今日は、好きにして。 本来なら、重荷を背負わされた気分にならなきゃいけないところだけど、 何か、逆に、重いものが取れた様な気分」 「そう、その通りだ、君には全てが許される。 何をするにしても、目的の設定から、その方法論に至るまで、全てが君の自由なのだ。 この力を得たその瞬間から、この世界は、君の自由になったのだ」 「…」 「さあ、始めるよ」
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