頂-ただひとり-の編-あみ- 第八話 ◆ 数週間も経たず、編は帰って来た。 憔悴しきった顔で、久しぶりに会えた喜びも、分かち合えず、 「心配したんだぞ!」の言葉にも薄い反応で、 こちらは、ただただ、どうしたらいいのかわからなかった。 結果は、まあ、うまくいくとは思ってもないが、 あの様子では、ただの惨敗っていう事でも無さそうだ。 彼女の部屋に様子を見に行っても、物音ひとつ無く、 すすり泣きもしなければ、寝息も無い。 「まさか、馬鹿なことをやったんじゃ…!」 急いでドアを開けると、 正座をし、微動だにしない姿があった。 「編…?」 編は薄く目を開くと、一言 「私は、救えなかった」 「どういうことだ?」 「前田が目をつけた人物に、前田より早く会えた。 だけど、結局彼女は、前田の能力で死んだ」 「…だから、救えなかったと?」 「…」 「だから、自分が無力と感じて、ノコノコ戻ってきたってわけだ。 あ、私に甘い言葉は期待しないでよ。こういうことズバッと言って嫌われちゃう特技があってね」 「知ってるよ、あなたに甘ったれるために戻ってきたわけじゃない」 「…じゃあ、何のため…?」 「知らなきゃいけないことを、私は何も知らないみたい」 「まあ、子供だし」 「大人になったって、普通に生きていれば、知ることは無いであろうこと」 「例えば?」 「あなたが知らないこと」 「はは、一本取られた気分だ、そりゃ、この年になっても、知らないことはたくさんあるさ だけど、私だって、まだ若いしねぇ」 「ふふ、東子さんは、昔の東子さんのままだね」 「それ、褒めてんの?貶してんの?」 と言いつつ、編の顔に笑顔が浮かんだことが嬉しかった。 つい、そのことを編に悟られ、編の笑顔が深みを増す。 私も、やれやれと微笑んで下を向く。 「だけど、長期不在から帰って来たのに、挨拶がなってないぞ」 「ごめんなさい…何となく、合わせる顔が思いつかなかったから…」 「真面目だねえ…それがあんたのいいところなんだけどね、 で、何を知りたいんだ? 私でも…そうか、わからないことか」 「神のみぞ知る」 「…やれやれ、あの儀式、覗かせてもらったけど… なんていうか…あ、気ぃ悪くしたらごめんね… あそこまでやって、正直、本当に得られるものあるの?」 「…それは私が一番知りたいよ… 結局、あの神様の欲望を満たすためだけの儀式みたいなものだよ」 「古今東西、人間のやることは、変わらないねえ…神様への生贄みたいなもんか あ、ほんと、ごめん…」 「いいよ、そういう認識持ってくれる人がいた方が、心強い」 「…ま、一応、カウンセラーだし…」 「ありがと、いい仕事してくれたね」 「まいどあり」
■_____2 |
|
ブラウザを閉じてください |