お風呂から上がり、私は、儀式用の正装に着替える。

やはり、集中する時はこれが一番いい。

彼女を正座させ、その前に立ち、刀印を結ぶ。

「能力を消滅させることは、難しいことじゃないからね」

そう言って彼女を安心させる。

彼女の口から言葉を聞きとるのは、もうとても難しい。

彼女の表情、振る舞いが全てだ。

私は、彼女に向かって、刀印を振る。

だけど、彼女の体から、能力が消えた気配が無い。

「…あの連続殺人の一件で、術を強化したの…?」

前田の術が破れない。何度刀印を振り下ろしても、術が断ち切れない。

「界理結界を使ったらどうだ?」クァ助はそう提案するが、

「駄目だよ。確かに、彼女の身体と外界は今、とても境界が曖昧だから、

界理結界で、彼女の体内の能力は消せるかもしれない。

だけど、彼女の身体そのものが、物理法則に則っていない。

この状態で界理結界を使ったら、彼女自身の体が消滅しかねない…」

万事休す。「ああ、あの役立たずの神様は、こんな時に役立つ力をくれない!」

「今そんな事を言ったってしょうがないだろ、今回ばかりは仕方が無い」

どうすることもできない私は、彼女の考えを読もうとした。

だけど、彼女の心にはもやがかかっているかの様。

私があきらめの表情を浮かべると、彼女は突然立ち上がる。

「待って!」去ろうとする彼女の手を握ろうとしたが、

ほとんど摩擦の無い、あり得ないくらいすべすべした肌が、私の手の中から逃げて行った。

気がつくと、彼女の姿はもう、どこにも無かった。

「ごめんなさい…私は何の力にもなれなかった…」

最初は、利用できるものは何でも利用する気でいたが、

どうやらそういうのは私には向いていないらしい。  

 

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