彼女が姿を消して一週間が経った。

だが、目立って大きな事件も無い。

彼女は、前田に力を与えられたものの、それで何かをしようとする気は無かったみたいだ。

だが、そんな彼女に力を与えて何の意味があるというのだ?

前田は、こうなることを予測できなかったのだろうか?

少なくとも、私が彼女に会った時は、彼女が大それた何かを為そうとしている様には思えなかった。

「何だか、わかんないな…」私は、そう言って、ホテルの部屋に据え付けてある、浴室に向かった。

そして、服を脱いだ時、部屋に張ってある結界に誰かが侵入したのを感じた。

だが、足音も何も聞こえない。私は、全身の神経を集中しているが、何も感じない。

結界に反応があったということは、少なくとも、それなりの構造の精神を持った生物が侵入したということであり、

その痕跡を一切感じさせないことなど本来は無いはずだ。

「これが、前田にもらった力なんだね…」私は、鏡越しに見えた人影に言った。

人影は何も言わず頷いた。

「それで、幸せになれた?」

人影は首を横に振る。

「どんな気持ち?」

人影は、何かを呟いたが、何も聞こえない。

それに気付くと、人影は、大きな声でしゃべろうとする。だけど、声の様な音がかすかに聞こえるだけ。

人影は叫ぶ。ただひたすらに、叫ぶ。だけど、聞こえない。

それでも叫ぶ。もう、言葉にすらならなくてもいい、泣く様に、赤ん坊が泣き叫ぶ様に、

ただひたすら、発する、声を、発する。

聞こえた

「助けて」

彼女の姿は、昼間だというのに、ひどく暗く、まるで、そこに柱の影ができた様。

彼女の発する全てのものが、その場でかき消されているかの様。

彼女は、まるで、この世にその存在を否定されてしまったかの様に、希薄な者として、そこに佇んでいた。  

 

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