◆ 出発の前日、儀式を行った。 前田を探すための力を得るためだ。 いつもの快楽の渦、そして、解放、そして… 「やあ」 「…どうも」 「ついに、この時が来た様だな」 「何もかも御存じな様で」 「それはもちろん、君のことはいつも見ているからね」 「まあ、いやらしい」 「ふふっ、だけどね、前田を探すなんてより、私と、快楽を貪る生活を選ぶべきなんだよ、君は」 「あなたが、一人で、でしょう? 私は気持ち良くなんてない。 そんなに言うなら、私にも気持ちいい思いさせてみなさいよ。下手クソ」 我ながら、どこで覚えたんだそんなセリフと思いながら、自然とそんな言葉が口に出る。 「君の罵りの言葉は相変わらず素敵だ。ああ、もっと…」 「それは、またの機会に。前田がらみの事が解決したらね」 何か面倒になってきたので、そっけなく答える。 あちらさんにとっては、それも何か嬉しい様だ。 「よろしい、では、与えることとしよう」 「今回も口から?」 「下からがいいかね?」 「…どっちでもいいから、早くしなさい」 すると、光のリボンの様なものが、私の体を包み始めた。 いつもの様な、無理やり体に入ってくるという感じではなく、 体の中に自然と吸収される様な感じ。 何と言うか、本当に気持ちいい。快楽とかそういうのではない、優しい気持ち良さだ。 何か、懐かしい肌触りの様な…だけど、初めて味わったかの様な… そして、全ての光が私の体内に入っていった。 「今回は、いつもとは違った力だ。」 「…? 珍しいね、説明してくれるんだ」 「前田に本格的に絡むのだ。下手をしたら、君を失ってしまうことになり兼ねん。 君の様な素晴らしい依り代が他にいるとはとても思えん。 何せ、常人なら、精神を完全に焼き切ってしまうほどの快楽を、君は平常心で受け入れられるのだ。 こんな逸材、他に無い」 「なら、もっと優しく扱ってほしいな」 「まあ、それも、次の結果次第ということだ。 今回、君に与える力は、君の内なる、人ならざる者を呼び覚ます力だ」 「どういうこと?」 「人の精神には、鬼が眠っている。知っているね?」 「まあ、血の濃いたたらの家系だから」 「そう、君は濃いたたらの家系。つまり、肉体的にたたらの要素が強い、ということだ。 つまり、君の中には、鬼とたたらが混在しているということになる。 そして、更に、神依りである、ということは、神性も存在しているということだ。 つまり、君には、創造の三種が眠っているのだ」 「創造の三種…」 「必要に応じて、君は、自分の中から、どれか一つ、力を引き出すことができる。 同時に複数引き出そうとしても、干渉が起きて、おそらく失敗するだろう。 困った時には、この力を使いなさい。もしかしたら、私も手伝える機会があるやもしれん」 「あれ、未確定?」 「本来、創造の三種がこの世界に関わるということは、 その時は、因果の外で物事が起きているということになる。 つまり、この力を使った以後の事は、今の時点ではわからない、ということだ。 その力を、お前の体内でのみ、留めるというのなら、肉体内世界は、異世界故、 因果律に影響は無いのだが、君はその力を外に向けて発揮する」 「それは、確定なんだ」 「それがどういう状況でなのか、は、ここでは控えよう。君自身の身で確かめてほしい」 「わかった。ありがとう、なんか不思議だな、あんたに感謝の念が湧くなんて」 「お役にたてるのなら何よりだ、では、これにて失礼しよう」 「あれ、今日はこれでおしまい?」 「今日は、君の清々しい笑顔を無粋な真似で崩したくないのだ」 「は?」笑顔を怒り顔に変えてみる。 「ははっ、いいじゃないか、たまには。明日は早いんだ、無駄な体力を使うこともあるまい」 「…あ、ありがと…」いきなりの親切に、口ごもる…っていうか、だったら、いつもそうしろよ! ふいに、目の前が暗くなる。いつもと違い、穏やかな気持ち良さに包まれる。 … 悪臭で目覚めるのは、いつもと一緒か… 「今日は、優しいお顔で舞っておられました、今日は神様は優しくしてくれたのですね?」 いつもの補助の巫女さんの優しい声。 「うん…今日は、優しかった」 「神様も、編さんの決意、わかってくれたんですよ」 「あれは、そういう奴じゃないよー…」 「うふふっ。 あ、お風呂、沸いてます。お体、きれいにしなくっちゃ!」 「だね」 そして二人で笑った。
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