頂-ただひとり-の編-あみ- 第五話 ◆ 誰だって、子供の頃は思い描いたことがあるだろう。 およそ、現実では手に入らない力を求め、 およそ為し得ない、大きなことをやってみたい、そんな夢。 だけど、どんなに大きくなって、そんなことあり得ないと思っても、 心のどこかでくすぶって、それでもそれでも、あきらめたくないと思っているはずだ。 例えば、俺は、正義の味方に、誰しも憧れるヒーローになりたかった。 いや、本当は、心のどこかで思っているはずだ、今でも、ヒーローになりたいと。 その為の努力は欠かしたことが無い。 それでも、未だに、ヒーローになるための、何かが欠けている…それは何だ? 「ちょいとそこのお兄さん」 高校から帰る途中、道で、白い服を着た少女に話しかけられた。 困ったことでもあるのかな? 俺が助けになってやれればいいんだけど… 「何だい? どうしたの?」 「お兄さんの今一番やりたいことって何?」 突然の質問に、困惑した。一体この子は何を言っているのだろう? 何かの宗教の勧誘か? そう言えば、この子の雰囲気は、何か、宗教的というか、神秘的というか… 何か、俺たち普通の人間とは違う様な感じがしなくもない… とにかく、怪しげなことは確かだ。 「えっと、ちょっと、急いでるんで…」 「嘘つきだね」 その言葉に思わずムッときて、顔に出してしまった。 「…嘘つきとは、何だよ…?」バツが悪いので、とりあえず問いただす。 「お兄さん、なりたいものがあるんでしょ?」 「!?」 何だ? この子、人の心でも読めるのか? 「そいつにはその様な能力は無い」 背後からの声にびっくりした。 振り返り、「い、一体何なんですか…あんたらは?」 「お前は、望みを叶えんがために、日々努力を怠っていないつもりだが、 根本を欠いた労力は、努力では無く徒労というものだ」 「何を言い出すんです? 意味がよくわかりませんが?」 「英雄になりたくば、力を蓄えてばかりでは無く、それを行使せねばならない。 例えば、オルレアンの聖女、彼女は、神託を受けた直後、腕に覚えも無く、後ろ盾が無いにも関わらず、 即行動を起こし、救国の英傑となったのだ」 「結局火あぶりになったんじゃありませんでしたっけ?」 「お前が救国の英雄ならば、勝利の見返りを民衆に求めるかね? 己の行動を正当に評価されないことを恨むのかね?」 「それは…」 「お前が、英雄という夢に今一歩踏み切れない、その裏には『保身』があると思わんかね?」 …痛いところを突かれたな…ああ、そうかもしれない。 俺は、我が身かわいさに、ヒーローになり切れないんだ。 善良な人達に降りかかる災いを、己の身で全て受けきる、それが、ヒーローってもんじゃないか? ようやっと、それに気付いた。 「どうすれば…ヒーローになれますか…?」 もう、この人達が、怪しいとか何とか言ってる時じゃない。 今動かなくて、俺はいつ動くというんだ! 「よろしい、ついてこい」 そう言って歩き出す背中についていく、白い背中。 更にその後ろについて、俺は歩き出した。
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