◆ 「ハアハア… 前田…」 あれから、どれくらいの時間が経った? 俺は、ようやく、前田の背中を捉えた。 「情けないな、随分かかったぞ」 「うるせえ…! よくも、俺を騙してくれたな!」 「騙す? 何を言っている、お前は成れたじゃないか、『正義の味方』とやらに」 「お前は… お前は正義じゃない…!」 「如何にも。俺は正義などに現を抜かした覚えは無い。 だが、俺に正義を求める者も多かったな、下らぬことだ、正義など」 俺は、全身の血が逆流する様な激情にかられ、前田に飛びかかった。 その瞬間、白い影が俺の横を通り過ぎる…! 「!」その瞬間、全身に力が入らなくなった… あれ、おかしいな… 「ご苦労だったな、少年よ。お前は、鬼神の目覚めに必要な力となる資格を得たのだ」 「なんの…ことだ…?」声がふるえる。まるで、自分の体の制御ができていないみたいだ。 前田からもらった力でさえも、この現状をどうにかすることはできないみたいだ… 俺の真上から誰かが語りかける…ユキか… 「お疲れ様、ゆっくり休んでね」 「俺は…死ぬのか…?」 前田は答える 「死など、この世界における、矮小な概念に過ぎん。 肉体から精神が抜けた後の行き先など、星の数ほどある。 お前の精神は、大いなる存在の一つに組み入れられるのだ」 「まさか、神様ってやつ…?」 「何をもって神とするかによって違いはあろうな、俺に言わせれば、それは、鬼であり、神なのだ。 少なくとも、一神教におけるそれとは、大分概念の異なるものだ」 「それになって、何かいいことあるのかよ…?」 そう言うと、前田は少し怒った顔になって 「未だに、見返りの存在する正義を行おうとするか、偽英雄よ。 お前のこれより向かう場所、そこには、喜びも、苦しみもある」 「この世界と… 何か 違いが… あるのかよ… ?」 「それはお前が、その目で確かめることだ」 「俺の…目…で…」 そう言うと、俺の呼吸は次第に薄くなっていき、鼓動も段々と静かに… やがて、すべてが、ぼうっ、としていき… 何もかもが薄くなって…
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