頂-ただひとり-の編-あみ-

第五話

誰だって、子供の頃は思い描いたことがあるだろう。

およそ、現実では手に入らない力を求め、

およそ為し得ない、大きなことをやってみたい、そんな夢。

だけど、どんなに大きくなって、そんなことあり得ないと思っても、

心のどこかでくすぶって、それでもそれでも、あきらめたくないと思っているはずだ。

例えば、俺は、正義の味方に、誰しも憧れるヒーローになりたかった。

いや、本当は、心のどこかで思っているはずだ、今でも、ヒーローになりたいと。

その為の努力は欠かしたことが無い。

それでも、未だに、ヒーローになるための、何かが欠けている…それは何だ?

「ちょいとそこのお兄さん」

高校から帰る途中、道で、白い服を着た少女に話しかけられた。

困ったことでもあるのかな? 俺が助けになってやれればいいんだけど…

「何だい? どうしたの?」

「お兄さんの今一番やりたいことって何?」

突然の質問に、困惑した。一体この子は何を言っているのだろう?

何かの宗教の勧誘か?

そう言えば、この子の雰囲気は、何か、宗教的というか、神秘的というか…

何か、俺たち普通の人間とは違う様な感じがしなくもない…

とにかく、怪しげなことは確かだ。

「えっと、ちょっと、急いでるんで…」

「嘘つきだね」

その言葉に思わずムッときて、顔に出してしまった。

「…嘘つきとは、何だよ…?」バツが悪いので、とりあえず問いただす。

「お兄さん、なりたいものがあるんでしょ?」

「!?」

何だ? この子、人の心でも読めるのか?

「そいつにはその様な能力は無い」

背後からの声にびっくりした。

振り返り、「い、一体何なんですか…あんたらは?」

「お前は、望みを叶えんがために、日々努力を怠っていないつもりだが、

根本を欠いた労力は、努力では無く徒労というものだ」

「何を言い出すんです? 意味がよくわかりませんが?」

「英雄になりたくば、力を蓄えてばかりでは無く、それを行使せねばならない。

例えば、オルレアンの聖女、彼女は、神託を受けた直後、腕に覚えも無く、後ろ盾が無いにも関わらず、

即行動を起こし、救国の英傑となったのだ」

「結局火あぶりになったんじゃありませんでしたっけ?」

「お前が救国の英雄ならば、勝利の見返りを民衆に求めるかね?

己の行動を正当に評価されないことを恨むのかね?」

「それは…」

「お前が、英雄という夢に今一歩踏み切れない、その裏には『保身』があると思わんかね?」

…痛いところを突かれたな…ああ、そうかもしれない。

俺は、我が身かわいさに、ヒーローになり切れないんだ。

善良な人達に降りかかる災いを、己の身で全て受けきる、それが、ヒーローってもんじゃないか?

ようやっと、それに気付いた。

「どうすれば…ヒーローになれますか…?」

もう、この人達が、怪しいとか何とか言ってる時じゃない。

今動かなくて、俺はいつ動くというんだ!

「よろしい、ついてこい」

そう言って歩き出す背中についていく、白い背中。

更にその後ろについて、俺は歩き出した。  

 

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