「赤」の人の一件で、疲れがどっと出た。 部屋に戻って、寝っころがっていると、クァ助が頭をつついてきた。 ちょっと頭に来たので、「今日は鶏肉が食べたいなあ」 なんてつぶやくと、「べ、別にそんな冗談言ったって、驚きはしないぞ!」 なんて、あからさまな強がりを言うので、ちょっとかわいくなって、がばっと抱きしめてみた 「馬鹿か! 野鳥に抱きつくなんて不衛生だぞ!」 とかこいつは言うが、実は誰もいない時を見計らって、こいつのことを洗ってやったりしているのだ。 「こんな不真面目なことをしている場合では無いだろ?」 「むー…たまには休息だって必要だぞ! 大体、女の子の部屋に忍び込むとは、いやらしいぞ!」 「俺はカラスだから、人間の女になんぞ興味は無い」 と、まあ、こんな馬鹿話をしていたら、コンコンとドアが鳴って、 「私だけど、いい?」と、東子さんの声がしたので、クァ助を窓から追い出し、 「いいよ!」と呼んだ。 部屋に入るなり「誰かと話してた?」と聞くので、「んーん? 私しかいないよ?」 と答えると、「だけど、誰かと話していた痕跡があるなあ」 「? 痕跡?」 「人の思考ってのは、その空間に必ず痕跡を残すんだ。その痕跡ってのは、その場にしばらく留まって やがて、薄れていく。この部屋には複雑な痕跡が二人分ある。丁度、誰かと話してたらこんな感じになる」 「東子さん、本当に、あっちで何やってたの…?」 「はい、話をそらさない、誰と話してたの?」 「えっと、イマジナリーフレンドってやつ…?」 「言ったでしょ?痕跡が二人分あるって。 イマジナリーフレンドとの会話の場合、痕跡は一人分しか残らないんだよ」 「へー…」 「ま、いっか」 「ねえ…」気になることがあったので聞いてみた。 「また、離れ離れになっちゃうなんてことは…」 「あー、無い無い」東子さんはあっけらかんと答える。 「私の思考を読み取ってくれればわかることでしょ?」 私はびっくりした。今まで東子さんに、思考を読み取る能力のことを言った覚えは無い。 この能力を隠しているわけじゃないが、積極的に話すものでもないので、 知っている人は身内でもほとんどいない。 「あんたの周りで、あんたの思考の痕跡が私やさっきの奴の思考の痕跡を取り込んでいくのを見たんだ。 テレパス能力者で、そういうの見たことあるから、あ、使えるんだ、ってね」 「隠していてごめんなさい…」 「わかってるって、むしろそんな能力あること言いふらす奴の方がどうにかしてるって」 「やっぱり、東子さんには隠し事は無理かな…」 「それはお互い様だね」 久しぶりに、二人して大笑いした。 ここにちえ姉さんもいればなあ…そう思うと、少し胸がキュッとした。
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