◆ 堂座は、毎日、夕方頃、街に繰り出す。 別に、遊びに行くわけじゃない。 街は、夜になると、欲望があふれ出す。 その、あふれ出した欲望につられ、「焦る者達」が集まってくるんだって。 堂座は、その、「焦る者」に、力や、きっかけをあたえてあげるのが仕事なんだって。 でも、そんなことをして何の得になるのだろう? どうやってこの人は生活してるんだろう? 一緒に居始めて一週間くらい経つけど、まだよくわからない。 今日も、堂座と一緒に街に出た。だけど、お目当ては見つからないって。 「焦る者」にも色々あって、より、多くの人の命に関わる様な理由で焦ってる人がいいんだって。 例えば、「多くの人を殺すため」とか、「殺されそうな多くの人の命を助けるため」とか。 「今日はもう駄目じゃない?」 私は堂座の手を引く。すると、 「いや、いた、だが、確かに駄目だな、そいつに力を与えるわけにはいかん」 その瞬間、私は背中に殺気を感じた。 「この感じ、知ってる!」 振り返ると、そこには、堂座と似たような、季節外れのロングコートの様なものを羽織った影があった。 「銀…」 「さすが『白』だな、俺だとわかるか」 「知り合いか?」堂座が聞いた。 「組織の仲間…常に相手に印象を悟られずに近づく、通称、『顔なし鏡』の銀」 「あんな季節外れの格好で、印象を悟られないと?」 「逆光で、相手の恰好を見分けるのは難しいよ。 着ているのだって、ロングコートじゃ無く、レインコートだったりしたら? ロングコートって先入観が、目を離した隙に、あいつの姿を一瞬にして隠す…」 「顔を見てわかるか?」 私は首を横に振る。「組織内の誰も、あいつの顔を覚えていない。」 私は、ネオンに映るシルエットから目を離さずにいた。 少しでも相手が動いたら、その時が勝負だと思ったから。 「たわけ、逃げるぞ」 「!?」 堂座は、そのシルエットに向かって走りだした! 「え!? 逃げるって…でも…」 シルエットに近づくと、その正体がわかった、それは、等身大ポップだったのだ! 「まんまと騙されたわけだ、なるほど、顔なし鏡か、 いいか、とにかく殺気を読め! 全身の毛穴から、情報を集めろ! 奴は今、どこから俺達を狙っているのかわからんのだぞ!」 路地裏を抜け切った、殺気はもう、感じられない。 「どうやら、お前を狙っているという警告を与えに来ただけの様だな…」 私は、その時、多分、生まれて初めて「死の恐怖」を感じたのだと思う。 思わず、堂座の手を握っていた。 そして、堂座は、握り返して応えてくれた… 堂座も怖いの? それとも、私を励ましてくれているの? 堂座の顔は、ただただ厳しく前を見つめているだけだった。
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