堂座は、毎日、夕方頃、街に繰り出す。

別に、遊びに行くわけじゃない。

街は、夜になると、欲望があふれ出す。

その、あふれ出した欲望につられ、「焦る者達」が集まってくるんだって。

堂座は、その、「焦る者」に、力や、きっかけをあたえてあげるのが仕事なんだって。

でも、そんなことをして何の得になるのだろう? どうやってこの人は生活してるんだろう?

一緒に居始めて一週間くらい経つけど、まだよくわからない。

今日も、堂座と一緒に街に出た。だけど、お目当ては見つからないって。

「焦る者」にも色々あって、より、多くの人の命に関わる様な理由で焦ってる人がいいんだって。

例えば、「多くの人を殺すため」とか、「殺されそうな多くの人の命を助けるため」とか。

「今日はもう駄目じゃない?」

私は堂座の手を引く。すると、

「いや、いた、だが、確かに駄目だな、そいつに力を与えるわけにはいかん」

その瞬間、私は背中に殺気を感じた。

「この感じ、知ってる!」

振り返ると、そこには、堂座と似たような、季節外れのロングコートの様なものを羽織った影があった。

「銀…」

「さすが『白』だな、俺だとわかるか」

「知り合いか?」堂座が聞いた。

「組織の仲間…常に相手に印象を悟られずに近づく、通称、『顔なし鏡』の銀」

「あんな季節外れの格好で、印象を悟られないと?」

「逆光で、相手の恰好を見分けるのは難しいよ。

着ているのだって、ロングコートじゃ無く、レインコートだったりしたら?

ロングコートって先入観が、目を離した隙に、あいつの姿を一瞬にして隠す…」

「顔を見てわかるか?」

私は首を横に振る。「組織内の誰も、あいつの顔を覚えていない。」

私は、ネオンに映るシルエットから目を離さずにいた。

少しでも相手が動いたら、その時が勝負だと思ったから。

「たわけ、逃げるぞ」

「!?」

堂座は、そのシルエットに向かって走りだした!

「え!? 逃げるって…でも…」

シルエットに近づくと、その正体がわかった、それは、等身大ポップだったのだ!

「まんまと騙されたわけだ、なるほど、顔なし鏡か、

いいか、とにかく殺気を読め! 全身の毛穴から、情報を集めろ!

奴は今、どこから俺達を狙っているのかわからんのだぞ!」

路地裏を抜け切った、殺気はもう、感じられない。

「どうやら、お前を狙っているという警告を与えに来ただけの様だな…」

私は、その時、多分、生まれて初めて「死の恐怖」を感じたのだと思う。

思わず、堂座の手を握っていた。

そして、堂座は、握り返して応えてくれた…

堂座も怖いの? それとも、私を励ましてくれているの?

堂座の顔は、ただただ厳しく前を見つめているだけだった。  

 

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