市内のある霊園、

ここには、各界の要人が多数眠り、

彼らを偲んで、彼らに纏わる人物が集まる場所でもある。

その日は、小雨が降っており、傘を差すまでもないものの、

集う者の肩を染めている。

「…これは大物だ…異様な気配を嗅ぎつけ来てはみたが、

あの様な風情に因縁をつけられても困る、ここは立ち去るか…」

ある、大きな墓石の前に集まる連中を、小高い場所から見下ろしている、

一見みすぼらしい様で、何やら風格を感じるその男が、見張りの男達に悟られぬ様、

その場を後にしようとした時、集団に向かって歩いてくる白い姿があった。

「子供?あの連中の連れ…という感じでは無い…」

集団のうちの一人が子供に気付く。

だが、子供だ、ということで、特に気には留めない。

むしろ、この子の親がどこにいるのだ、と、周囲を探す。

そうして、注意が逸れている間にも、子供は集団に近づいていき、

やがて、集団の中心にいる初老の男性の足下に立った。

「おや? お嬢ちゃん、どうしたんだい? お父さんかお母さんは?」

男性が、少女に優しく話しかけると、少女は、男性に手に持った花を差し出した。

「!?… 綺麗なお花だね。お供えしてくれるのかい?

もしかして、先代のおじいちゃんのお知り合いかな?

きっと、喜ぶよ。」

男性がそう言うと、少女はにっこりとほほ笑む。

そして、別に、花を供えるでも、何でも無く、少女は、男性の横を通り過ぎていった。

周囲の男達が不審に思うが、別に異常は無さそうだ。

男の一人が、男性に話しかける。

「!!」

男性は、突然首から血を噴き出して倒れた。

男達は、先程の少女の姿を探すが、どこにも見当たらない。

小高い場所の男は、「ほう」と頷き、誰の目にも触れずにその場を立ち去った。

気付けば、墓石の前には、男達の死体が転がっていた。

ここは霊園であるが、焼かれてもいない死体が転がっているのは少々不自然な光景ではある。

だが、その光景を、まだ物足りなそうに見る目があった。

「見ていた人がいる…」

涼しい小雨の昼下がり、白い服は一瞬の風となって、紫陽花の花を揺らし、走り去って行った。

 

 

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