私の中学生活は、最高の物になるはずだった。

 

この街に引っ越してきたばかりの私は、顔馴染みがいない環境で、最悪の中学生活を迎えた。

誰とも話せず、誰にも気付かれず、孤立するばかり。

そんな中で、私に話しかけてくれたのが、あの子だった。

あの子も、クラスに馴染めず、どうしようもない気持ちでいたらしい。

あの子はとても可愛いかった。だから、友達が少なくても結構クラス内では目立っていて、

実のところ、皆にとっては近寄りがたい存在だったのだ。

そんな中で私だけが彼女と親しかったことで、正直、得意になっていた。

クラスの人達が私を嫌う下地は充分出来上がった。

そして、きっかけが訪れた。

私達が二年生になった、ある日

彼女が、隣のクラスの優等生と怪しい関係だって噂…実は本当で、

彼女は、私だけに彼のことを打ち明けてくれたのだ。

だけど、そんな折、彼が、家の事情で転校せざるを得なくなった。

その日の夜、彼女の泣きながらの電話が忘れられない。

事態がおかしくなったのは、翌日のことだ。

彼女が、ものすごい剣幕で私につっかかってきた。

どうやら、クラス内では、私が、彼に対し好意を抱いていて、

彼女を裏切って私と付き合うべきと何度も脅迫したことが、彼の引っ越しの原因

ということになっているらしい。

そんなことあり得る筈が無い。

だけど、それを彼女は鵜呑みにした。

何度説明しても、彼女は納得しない。

そればかりか、クラス中の人間が、私を悪に仕立てようと、ありもしないことを次から次へと言ってくる。

「そんなことあるわけ無いじゃん!あの時あなただって一緒にいたでしょ!」

ニヤニヤして、クラスの男子が「ムキになって言い訳したってことは、本当なんだな!」

「顔に似合わずすごいことするねえ」「それでね…ヒソヒソ…でね…」「うっそー!マジ!?」

彼女の顔が、怒りに染まる。冷静に考えれば、こいつらの言ってることの方が明らかにおかしい。

だけど、もう、冷静さなんて取り戻せそうにない。

だけど、ここでムキになっても、多勢に不勢、私にはどうしようもない。

「どうすれば…いい…?」

すると、クラスの男子が「土下座だろ!土下座!」「ただ土下座しただけじゃ駄目じゃね?」

「裸になって土下座しろよ!」「あはは、それはやりすぎ!」「じゃあ、どうすんだよ?」

「全員にケツ蹴られるってのは?」「俺はケツ見てえ!」「もう裸でよくね?で、蹴られんの」

「脱いだり着たりしてたら時間かかって、先生に見つかったらヤバくね?」

「じゃあ、一日ノーパンなんてどうよ?」「それよくね?」「ケツに鉛筆入れて授業受けさせるのってどうよ?」

「すげえ、お前変態!」「俺、今、マジ勃起!」

話がどんどん、おかしな方向にエスカレートしていく。

いつの間にか、話し合いに女子の声が消えている。

私は危険を感じ、男子が話し合いに盛り上がっている隙に、全力で逃げ出した。

「あ!逃げやがった!」「追え!チクられたらやばい!」

「ちょっと!あんな怖いこと言われたら逃げ出すの当然でしょ!」「男子ってどうして馬鹿なの!?」

男子と女子で言い合いが起きているのを尻目に、私は学校を抜け出した。

夕方になって、家に帰るのも何か嫌で、どうしようもなくなっていると、

どことなくみすぼらしいんだけど、妙に風格のある恰好をした男の人に声をかけられた。

最初は身構えたが、なんだかどうでもいいや、と思って、男の人の話を聞いていた。

…何この人…頭おかしいのかな…?

だけど、今日は色々あったからな…もしかしたら私の頭がおかしくなっていて、正しいのはこの人の方?

男の人は、私に、ナイフをくれた。そして、おまじないの様な言葉を私にかけて、そして去って行った。

…ナイフを手にした私は、ある種の衝動が湧き上がってくるのを感じた。

それから次の日までの記憶はあいまいだ。

その時の記憶が、事実であるとするのなら…

私は、ビルの屋上から屋上へと飛びはねてまわり、

私の好きなお菓子屋さんでお菓子を見たり、今まで気になっていた映画を20本ほど観たり、

そう言えば、靴を履きかえてなかったと、上履きと靴下を脱ぎ棄て、裸足になったり、

あ、今日は好きな番組をやっているんだと思って、リビングに降りて行ってテレビをつけたり、

汗でびしょびしょだからお風呂に入りたいなと思ったり、マンホールのフタは重いな、と思ったり、

油まみれの野良猫を可哀想と思ったり、飛行機ってずいぶん高い所を飛んでいるんだなと思ったり

そして、気付いたら、いつもの登校時間、学校にいた。

クラスの女子が私に気付いて、「昨日、どうしたの…?家にも帰ってなかったって…」

彼女の言葉を無視して教室に向かう。私は、自分の席に座り、目の前に座るかつての友人が驚く様を確認して、

ポケットからナイフを取り出し、そのまま躊躇せず、刃を彼女の首筋に滑らせる。

頸動脈の位置が完全に把握でき、一寸の狂いも無くそこを切ったわけだから、彼女が助かる見込みは無い。

そして誰かが事態を把握するその直前に、私は教室から忽然と姿を消した。  

 

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