◆ 高校生活最後の夏休みが終わり、新学期が始まる。 もう、高校三年ともなれば、夏休みを遊んで過ごした人は少ないらしく、 土産話に花を咲かせるなんていう光景はあまり見られない。 だが、不思議と、クラス内が一体となっている感じがする。 そんな感じで、クラス内を眺めていると、阿合さんが近づいてきた。 「宮田さん…ちょっと、いい?」 「…いいけど、何?」 「いいから、来て」 阿合さんに言われるままに、後をついていく。 あえて心は読んでいない。 教室から少し離れた、階段の踊り場。 「…何?」 「宮田さん… ごめん」 「何が?」 「色んなことがあって、辛いはずの宮田さんを、傷つける様な態度とか、言葉とか… 思い出したら、本当に、私って、ひどいことばかりで…」 「ちょっ… ちょっと、待ってよ! 私、そんな、あなたに傷つけられたとかそんなこと思ってないよ!」 「いいから! あの夜のこと覚えてる?」 「お… 巨人になったあの日のこと?」 「うん… あの時、色んな人の、色んな思いや、心が、私の中に入ってきて… 私も、心を色んな人に晒して… それで、自分自身を初めて、本当の意味で客観的に見つめることができた。 それで、気付いたの、私は、今まで、色んな人の心を傷つけてきたんだって。 私は、これまで、優しさのつもりで、色んな人に、色んな声をかけてきた… だけど、結局は、他人のためではなくて、自分は優しい人間なんだとアピールするためのものだった… そして、その結果、人を傷つけることになっちゃったんじゃないかって… その全部の人に謝ることは難しいけど… あなたには絶対に謝らなきゃって… 本当に、ごめんなさい…!」 「…そんなこと…気にしなくてもいいんだよ… あなたの笑顔に励まされている人だって実際にたくさんいるんだから。 私も、あなたには何度も救われているんだよ」 「本当?」 「うん、本当だよ」 「ありがとう… わああ…」 阿合さんは、私の胸に飛び込む様にして泣いた。 私は、阿合さんの肩をそっと抱きしめる。 笑顔を武器に、苦難に立ち向かう、クラスの結束のカリスマは、 実は、傷つきやすい一人の少女だったのだ。 前田や、以前のメズサ達も、こんな普通の傷つきやすい人間を英雄に仕立てあげてきた。 これからの私の使命の重さを、改めて実感する瞬間であった。
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