丸子は、たたらの剣術の構えの一つ、「天津人」で、私に対峙している。

なるほど、たたらは、鬼を倒すという役目を神から与えられた。

そのたたらの技を使うのは、理にはかなっているだろう。

だが、所詮は人間、私を傷つけることなど…

そう思っていた矢先の事である。

私の身体が、右肩から斜めに分断された。

「!? な!? 丸子… 貴様が…?」

「ああ、そうだ。俺が、お前を斬ったんだ」

「馬鹿な! 人間が…」

「人間だからだよ。俺は、どうやら、英雄たる資格があるらしい。

 つまり、俺には、人類を脅かす要素に対して、それが如何なる存在であろうと、

 そこに直接干渉できる能力があるってことだ」

「それで、私の身体を…?」

「まあ、そういうことだろうな」

「何故だ!? 神の加護も、たたらの能力も完全に受け継いだわけではない、ただの人間が…」

「わかんねえか? 人間を生み出したのが、あんたら鬼ならば、わかるだろ?

 獣の魂を持ったまま、神の魂にひけをとらない、そんな極上の魂をつくるために、

 鬼は、生物の精神に飛び込んだ。

 それが、人間の本質を形成する第一歩だった」

「その通りだ。鬼こそ、人間の本質」

「だが、人間は、独自に、たたらや、神との繋がりを持った」

「ああ、そうだ。人間は、利用され、物質世界を連中の思い通りに動かすための道具にされたのだ」

「そして、それが、人間に、本当の『神性』をもたらす要因になった」

「待て、『神性』だと? 神性を持った人間が生まれていたというのか?」

「人間が神性なんて持てやしねえよ。だが、獣性を上質なまでに抽出した、それが人間の魂。

 その輝きは、神性にも劣らない。それ故に、人間は、この世界のあり方に口を出せる存在になった。

 もっとも、環境破壊とかそういうのは別問題だがな」

「それは、どういうことだ?」

「鬼が出しゃばるのは、これが最初で最後ってことだ。

 これからは、外に出ることなんて望まずに、眠って過ごすんだな」

「貴様…!」

「言葉に気をつけろ、ここじゃあ、肉体を持った者が決定権を持つんだ」

そう言うと、丸子は、剣を手放し、手のひらを上に向けた。

すると、その姿はまばゆい光に包まれた。

「あ… ああ… これが… 神性に逼迫する獣性なのか…

 そうか… 我々は、ついに… ここまで到達したのか…

 いや、我々というのはおこがましいな…

 この世界を創り上げた全ての存在こそが、生み出した、まさに奇跡なのだ…!」

「その通りだ」

頂の巫女の声が響き渡る。

「ならば、この魂は、神に並ぶ資格が…」

「それには、まだ遠い。

 魂は、更に一層の輪廻を繰り返し、そして、抽出に抽出を重ね、

 その純度を更に増す必要がある。

 人類の代では、終わらないかもしれぬ」

「まだ…終わらない…」

「嘆くこともない。神やたたらが、人類に接することにより、魂の純度が増したのは事実だ。

 もとより、そうなることがわかっていたからこそ、彼等も協力をしてくれた。

 彼等とて、神性に並ぶ魂が生まれることは喜ばしいことなのだ。

 それまでは、お前達の役目も終わることはないだろう。

 人の精神を、奥底から支えてほしい。そして、次なる牽引者達の力にもなってやってくれ」

「…ああ、わかった…

 思えば、我々は、魂の質を高めることよりも、自身の解放ばかりを望む様になっていた…

 いつからそうなってしまったのであろう?

 それが、生物の持つ欲望に良からぬ影響を与えていた可能性も否定できん…

 うむ… これより、我々は、眠りにつくことにしよう。

 そして、魂の成長を、許される範囲で支えていくことを誓おう」

「ありがとう」

「こちらこそ」

 

 

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