「ただいまー、前田ー! お客さんだぞ!」

いきなり呼ばれたので、びっくりした。

「え!? 私ですか?」

とりあえず、行ってみると、そこにいたのは…

「赤… 久しぶりだね…」

「おう、元気そうだね」

すると、高見先生は、

「二人とも、積もる話もあるだろうから、私はお邪魔かな… 邪魔してばっかだな私」

と、そそくさと立ち去ってしまった。

…今更何を話せばいいんだ?

「もう、戻らないのか?」

切りだしたのは赤の方。

私は、何も答えない。すると、

「まあ、今更、戻れないだろうな。どうせ、戻る気も全く無いんだろ?」

「私にはやることがある。あなたはどうなの?戻る気は無いの?」

「無いね。私も、宮田家を陰ながら守っていきたいんでね」

「別に、あなたがやる必要は無いでしょ? 私には、その役目がちゃんと与えられた」

「つれないねえ… いいじゃん、私の勝手でしょうが」

「まあ、そりゃあ、そうだけど…」

「それにしても、ガキっぽいワンピースだねえ。そんな趣味あったんだ」

「編に謝って。選んでくれたのはあの子だよ」

「そりゃ悪い。でも、似合ってることは確かだね。かわいいよ、私ももちっと若けりゃ…」

「それはやめたほうがいいと思う」

「…はっきり言ってくれるねえ… まあ、それもそうだけど」

「前から思ってたんだけど…」

「何?」

「コードネームと服装が合ってない」

「青いのが好きなのはこの仕事やる前から。後からつけられたコードネームに従う気なんて無いよ」

「…いいな…そういうの… 私は本当に小さい時からだったから…」

「… おい」

「何?」

「今、この時を大事にしろよ。本当だったら、殺しで始まり、殺しで終わる人生だったはずだ。

 それが、殺し以外の、自分が好きなことをできる時間を持てているんだ。

 そんな時間が少しでも長く続く様に、気をつけて、大事に、大事に生きていけ」

「何? この前、編と観た映画で、そんなセリフ言ってた人がその後のシーンで死んじゃってたけど…」

「自分でも縁起の悪いこと言ってるってのは承知だよ。だけど、お前は、まだ若いし…」

「あなただって若いよ。気をつけるのはお互い様。

 それこそ、他の連中から殺されたって仕方無い立場なんだから」

「だな… とにかく、お前の顔が見れて良かった。あと2年もすれば一緒に酒飲めるよな」

「別に今でも…」

「ばっ… 一応、今はカタギだろうが!」

「カタギだって、法守ってない人はたくさんいるよ?」

「あのなあ… 私らは、本来、お天道様の下をまともに歩ける様な人間じゃないんだ。

 それを、こうやって、真っ当に生きるチャンスが与えられたってのは、ありがたいことなんだぞ。

 ならば、それに、本当に真っ当に生きて応えるってのが…」

「ほんと、相変わらず、ヤクザ映画みたいな人」

「ちぇっ… 見たこともねえくせに…」

「さっき言ったでしょ? あの時観たのがヤクザ映画。

 観てる時、あなたのこと思い出しちゃって、笑いを堪えるのが大変で…」

「おいおい… まったく… だけど、お前、そんな明るい顔できる様になったんだな」

「うん。作り笑いしてるより、本当に笑ってた方が楽しいんだね」

「あったりめえだろ! おい、お互い、あと2年。

 しっかり生き延びてたら、私が酒でもおごってやるよ!」

「本当?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ、楽しみにしてるね。絶対だよ。絶対に、生きててよ」

「ああ、じゃあな」

そう言って、赤は去って行った。

生きていることを約束し合う…

同業者同士で、そういうことをし合った覚えは、そう言えば、無い。

生きていて… 私も、精一杯、生き抜いて見せるから…!  

 

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