◆ 「ただいまー、前田ー! お客さんだぞ!」 いきなり呼ばれたので、びっくりした。 「え!? 私ですか?」 とりあえず、行ってみると、そこにいたのは… 「赤… 久しぶりだね…」 「おう、元気そうだね」 すると、高見先生は、 「二人とも、積もる話もあるだろうから、私はお邪魔かな… 邪魔してばっかだな私」 と、そそくさと立ち去ってしまった。 …今更何を話せばいいんだ? 「もう、戻らないのか?」 切りだしたのは赤の方。 私は、何も答えない。すると、 「まあ、今更、戻れないだろうな。どうせ、戻る気も全く無いんだろ?」 「私にはやることがある。あなたはどうなの?戻る気は無いの?」 「無いね。私も、宮田家を陰ながら守っていきたいんでね」 「別に、あなたがやる必要は無いでしょ? 私には、その役目がちゃんと与えられた」 「つれないねえ… いいじゃん、私の勝手でしょうが」 「まあ、そりゃあ、そうだけど…」 「それにしても、ガキっぽいワンピースだねえ。そんな趣味あったんだ」 「編に謝って。選んでくれたのはあの子だよ」 「そりゃ悪い。でも、似合ってることは確かだね。かわいいよ、私ももちっと若けりゃ…」 「それはやめたほうがいいと思う」 「…はっきり言ってくれるねえ… まあ、それもそうだけど」 「前から思ってたんだけど…」 「何?」 「コードネームと服装が合ってない」 「青いのが好きなのはこの仕事やる前から。後からつけられたコードネームに従う気なんて無いよ」 「…いいな…そういうの… 私は本当に小さい時からだったから…」 「… おい」 「何?」 「今、この時を大事にしろよ。本当だったら、殺しで始まり、殺しで終わる人生だったはずだ。 それが、殺し以外の、自分が好きなことをできる時間を持てているんだ。 そんな時間が少しでも長く続く様に、気をつけて、大事に、大事に生きていけ」 「何? この前、編と観た映画で、そんなセリフ言ってた人がその後のシーンで死んじゃってたけど…」 「自分でも縁起の悪いこと言ってるってのは承知だよ。だけど、お前は、まだ若いし…」 「あなただって若いよ。気をつけるのはお互い様。 それこそ、他の連中から殺されたって仕方無い立場なんだから」 「だな… とにかく、お前の顔が見れて良かった。あと2年もすれば一緒に酒飲めるよな」 「別に今でも…」 「ばっ… 一応、今はカタギだろうが!」 「カタギだって、法守ってない人はたくさんいるよ?」 「あのなあ… 私らは、本来、お天道様の下をまともに歩ける様な人間じゃないんだ。 それを、こうやって、真っ当に生きるチャンスが与えられたってのは、ありがたいことなんだぞ。 ならば、それに、本当に真っ当に生きて応えるってのが…」 「ほんと、相変わらず、ヤクザ映画みたいな人」 「ちぇっ… 見たこともねえくせに…」 「さっき言ったでしょ? あの時観たのがヤクザ映画。 観てる時、あなたのこと思い出しちゃって、笑いを堪えるのが大変で…」 「おいおい… まったく… だけど、お前、そんな明るい顔できる様になったんだな」 「うん。作り笑いしてるより、本当に笑ってた方が楽しいんだね」 「あったりめえだろ! おい、お互い、あと2年。 しっかり生き延びてたら、私が酒でもおごってやるよ!」 「本当?」 「ああ、本当だ」 「じゃあ、楽しみにしてるね。絶対だよ。絶対に、生きててよ」 「ああ、じゃあな」 そう言って、赤は去って行った。 生きていることを約束し合う… 同業者同士で、そういうことをし合った覚えは、そう言えば、無い。 生きていて… 私も、精一杯、生き抜いて見せるから…!
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