◆ しばらく歩いていると、背後に何者かの思考の痕跡を感じ取った。 振り向くと、「赤」がいた。 「よう、久しぶりじゃん。元気にしてた?」 「赤」の口ぶりは相変わらず飄々とした感じだ。 「人の後をつけておいて、何様?」 「つれないなあ… お宅のお姫様も、最近は突然の出歩きはしてないみたいだね」 「…一応、受験生ですから」 「ふーん…」 「…私と世間話したいわけじゃないでしょ? 何の用なの?」 「『白』がお宅んとこ入ってくの見たんだけど… あいつ元気にしてる? 学校とかでは迷惑かけてない?」 「何? 気になる?」 「一応、同僚だったわけだし…」 「心配無いよ、元気だし、成績も悪くはないみたいだよ」 「まあ、余所に取り入るのが専門だしね… まあいいや… ところで…」 「…何?」 「最近、『無思考』の状態になるとな… いや、殺しの仕事とかじゃなく、 ちゃんと訓練しとかないと、いざって時に鈍ってちゃぁしょうがないからさ」 「言い訳はいいから、続き話して」 「はいはい… なんていうか、ノイズが入って、完全な『無思考』になれないんだ… 以前、あんたにやられた時みたいに…」 「あんたも、異常を感じてるの?」 「何らかの異常は皆感じてるとは思うんだけど… 一体、どういうことなんだ? ただの暑さのせいってわけじゃねえよな?」 「そうだとすれば、いいんだけどね… 残念だけど、そういうわけじゃない。 思考の同化が始まっているんだ」 「思考の同化?」 「人と人の思考は、本来混じり合うことは無い、これはわかるよね?」 「まあ、脳ミソを共有しているわけじゃねえからな」 「脳っていうのは、思考装置ではなく、精神の感受装置と言った方が正しいんだ。 この世界に、平行的に存在している、精神世界に漂うエネルギーから、 現在、必要としている情報を検索し、取り入れる、それが思考の正体。 インターネットの検索エンジンでも、他人の検索している言葉に応じて、 自分の検索結果が変わるなんてことは無いよね?」 「まあ、そのうちそんなシステムもできるかもしれないけど」 「実は、そんなシステムが、今、人間の思考システムに組み入れられている」 「! マジ?」 「だけど、そんなのは、普通は誰も気づかない。 自分の思考が、他者の思考にどれだけ影響を受けているかなんて、わかるはずがない」 「なるほど… 思考の痕跡を見ることができるあんただから、わかるのか」 「あんたが完全に無思考状態になれないのも、誰かの思考が入り込んでくるから。 今の状態で、無思考だなんて、それこそ、自由に入ってきてくださいと言わんばかりだよ」 「なるほど、素っ裸で、股広げて外に出るようなもんか」 「その例えはどうなんだろうね… いくらなんでも、そんな変態相手にしようなんて奴いないでしょ?」 「あくまで、例えですから」 「…せっかくだし、うちに来てみる? ユキ…『白』と話してみない?」 「…そうだなあ… 今会っとかないと、一生会えないなんてこともあり得るからね」 「あんたみたいな人が言うと、本当に縁起でもないね」 「ほっとけ」
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