しばらく歩いていると、背後に何者かの思考の痕跡を感じ取った。

振り向くと、「赤」がいた。

「よう、久しぶりじゃん。元気にしてた?」

「赤」の口ぶりは相変わらず飄々とした感じだ。

「人の後をつけておいて、何様?」

「つれないなあ… お宅のお姫様も、最近は突然の出歩きはしてないみたいだね」

「…一応、受験生ですから」

「ふーん…」

「…私と世間話したいわけじゃないでしょ? 何の用なの?」

「『白』がお宅んとこ入ってくの見たんだけど… あいつ元気にしてる?

 学校とかでは迷惑かけてない?」

「何? 気になる?」

「一応、同僚だったわけだし…」

「心配無いよ、元気だし、成績も悪くはないみたいだよ」

「まあ、余所に取り入るのが専門だしね… まあいいや…

 ところで…」

「…何?」

「最近、『無思考』の状態になるとな… いや、殺しの仕事とかじゃなく、

 ちゃんと訓練しとかないと、いざって時に鈍ってちゃぁしょうがないからさ」

「言い訳はいいから、続き話して」

「はいはい… なんていうか、ノイズが入って、完全な『無思考』になれないんだ…

 以前、あんたにやられた時みたいに…」

「あんたも、異常を感じてるの?」

「何らかの異常は皆感じてるとは思うんだけど… 一体、どういうことなんだ?

 ただの暑さのせいってわけじゃねえよな?」

「そうだとすれば、いいんだけどね… 残念だけど、そういうわけじゃない。

 思考の同化が始まっているんだ」

「思考の同化?」

「人と人の思考は、本来混じり合うことは無い、これはわかるよね?」

「まあ、脳ミソを共有しているわけじゃねえからな」

「脳っていうのは、思考装置ではなく、精神の感受装置と言った方が正しいんだ。

 この世界に、平行的に存在している、精神世界に漂うエネルギーから、

 現在、必要としている情報を検索し、取り入れる、それが思考の正体。

 インターネットの検索エンジンでも、他人の検索している言葉に応じて、

 自分の検索結果が変わるなんてことは無いよね?」

「まあ、そのうちそんなシステムもできるかもしれないけど」

「実は、そんなシステムが、今、人間の思考システムに組み入れられている」

「! マジ?」

「だけど、そんなのは、普通は誰も気づかない。

 自分の思考が、他者の思考にどれだけ影響を受けているかなんて、わかるはずがない」

「なるほど… 思考の痕跡を見ることができるあんただから、わかるのか」

「あんたが完全に無思考状態になれないのも、誰かの思考が入り込んでくるから。

 今の状態で、無思考だなんて、それこそ、自由に入ってきてくださいと言わんばかりだよ」

「なるほど、素っ裸で、股広げて外に出るようなもんか」

「その例えはどうなんだろうね… いくらなんでも、そんな変態相手にしようなんて奴いないでしょ?」

「あくまで、例えですから」

「…せっかくだし、うちに来てみる?

 ユキ…『白』と話してみない?」

「…そうだなあ… 今会っとかないと、一生会えないなんてこともあり得るからね」

「あんたみたいな人が言うと、本当に縁起でもないね」

「ほっとけ」  

 

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