「まだ始めてとは言っていない!」

少女が叫ぶ。だが、クマはそんな言葉に耳を傾けず、丸子君に向かってくる。

そして、丸子君の目の前に来て、平手を打ってきた。

それを咄嗟に丸子君は、前かがみになってかわした。

だが、クマは丸子君を上から押さえつけた。

「ぐ…」

丸子君は、両手を地面につき、クマの押さえ込みに耐えている。

すると、丸子君の両手に、霊力が集中しているのがわかった。

これは、丸子君が…?

いや、違う。丸子君を通して、クマが霊力を集中しているのだ。

「あのクマ… 何者…?」

そして、丸子君の両手の間から、何かが伸びてくる。

地面から、タケノコのような、土の色をした何かが。

それは、周囲の草を巻き込み、日本刀ぐらいの長さにまでなった。

丸子君の能力を通して、あのクマの送り込んだ霊力が、あれを創りだした様だ。

「それを取れ」

クマが、喉の奥から絞り出すような声で言った。

丸子君が、その土色の棒を手に取り、持ち上げると、棒を巻き込んでいた草が切れる。

見た目こそ土の塊の様な棒だが、それは確かに切れ味を持った剣である。

「霊力…つまりはイデアを集める要領はつかんだはずだ。

 お前は、そこに物体があれば、そこから思い描いたものを生成できる」

「見た目はあんまりよろしくないがな」

「お前は、武器に見た目を求めるのか?」

「いや、切れれば、それでいい」

「切れればいいのか? 相手の攻撃を防げなくとも?」

「へへっ… 刀は、そういう使い方をするもんじゃねえんだろ?」

「そうだな… たたらの者からよく学んだ様だ」

「おかげさまで、死ぬ目にあったぜ」

「お前を死ぬ目に合わせた者、その姿をした私を倒せるかね?」

「やらなきゃなんねえんだろ? だったら、やるまでだよ。

 それに、今の要領で武器を創りだせるのなら、この剣が曲がろうが折れようが、

 もう、何も関係ねえってこった」

「ならば、その生成の前にお前を殴り殺してやろうか。

 それとも、生成される武器ごと殴り殺そうか?」

「やれるもんならやってみやがれ!」

そして、少女は口を開いた。

「二人とも、始めて…!」  

 

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