◆ 待ち合わせ場所は、繁華街の入り口。 派手な看板に通りの名前がデザインされてはいるが、塗装はかなり剥げている。 今もそれなりに人は多いが、昔は本当に、進むのが困難なほどに人がいたという。 ここでの買い物が、地元では一種のステータスみたいなものであったらしいが、 今となっては、いたる所で安売りの文字だ。 そして、決して少なくないとはいえ、最盛期から激減した人の数。 シャッターを下ろしたままの店も目立ってきた。 「おまたせ」 背後からの不意打ちに驚き、振り向くと、 清潔な白いシャツに、赤いプリーツスカートという、 寂れかけた繁華街とは正反対の初々しさを持った少女がいた。 巫女の家系と聞いたし、巫女さんの衣装着たらこんななのかな? と想像してしまう。 「あ、いや、そんなに待ってない」 こんな挨拶の様なやりとりもこっ恥ずかしい。 「せっかくだし、どっか寄ってく?」 「せっかくだけど、所持金が…」 「甲斐性なしだなあ」 お互い照れ隠しにおどけた会話が続く。 そして、思い出すのも恥ずかしいくらい甘ったるい会話を続けているうちに、家についた。 これから、女の子を、俺の家に… 俺の部屋に入れるのだ。 考えただけで、心のどこかが熱くなる。 まあ、道場に通ってくる女の子がいないわけではない。 今はスポーツ格闘技の道場だし、エクササイズ感覚の人も割と多い。 それこそ、これ以上綺麗になりたいだなんて…って人もいるのだ。 そこまでの美しさを求める男性が果たしてこの世にいるのか? と思わず世に問いたくなる。 そんな女性に、手取り足取り教える兄貴がうらやましいと思わないでもない。 と、考えていたら、何故か、宮田に頭を叩かれた。 「何すんだよ」 「べっつにー、顔がいやらしかったから」 「そんな顔してたか?」 「それより、はやく、案内してよ」 急かされて、インターホンを鳴らす。 「はい?」 「俺、ただいま。お客いるから」 「おー、待ってな」 しばらくして、兄貴が門を開けた。今日は道場が休みだから、かなりラフな格好だ。 「おかえり。お! 彼女? かわいいじゃん、俺にくれよ」 「何言ってんだよ、道場破りだよ」 「はははっ …」 兄貴は、笑った後、しばらく宮田を眺め、 「…マジか?」 「…冗談に決まってんだろ?」 「…だよな… だけど、彼女、何かやってるのか? おっと! すみません! 俺…いや、ワタクシ、この馬鹿の兄貴をやっております佐吉と申します。 こいつが、佐丸で、俺が佐吉、古臭い名前でしょう?」 「兄貴! 何言ってやがんだ!」 すると、宮田が、クスクス笑って 「面白いお兄様。 あ、すみません、私、佐丸さんのクラスメイトの、宮田といいます。 宮田編です、よろしくお願いします」 と丁寧にお辞儀をした。それにしても、綺麗なお辞儀だな。 「! あなたが! この馬鹿からよく話を聞いてますよ。すみません、いつもこいつが迷惑かけて… ところで、もしや、と思ったのですが… 失礼ですが、あの宮田家のお嬢様で?」 「何? 兄貴、こいつん家のこと知ってんの?」 「知ってるも何も、代々宮田家にはお世話になってるんだぞ、うちの道場は。 ていうか、ここら辺の武術関係者は大体そうだ」 「へー」俺は宮田の方を見た。宮田はにっこり笑っている。 兄貴は、俺の耳元に顔を近づけて 「でかした」と小声で言った。別にお前のためじゃねえ、と思ったが、 俺にも家の為にできることがあるのか、と思うと、少し嬉しいのは確かだ。
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