前田が何者かはともかく、現状をなんとかせねば。

残った攻めどころは、前田の右手方向。

得物の持ち手ではあるが、盾に隠れていなければ、攻撃の出所はつかめる。

つまり、比較的、反撃に対処しやすい。

すると、それに気付いたのか、前田は、壁と壁の隅に移動した。

左右とも壁に守られた、完全な防御態勢。

だが、これでは動けまい。

「どうした、退路は開いたぞ?」

「…負けっぱなしじゃ悔しいからね」

「ならば、どうする?」

「さあてね」

私は、構えたまま前田を見据える。

ここからは我慢比べ。隙を見せれば、取られる。

私は、あえて構えを高くとり、胴を開けた。

…乗ってこない。熟練した相手に誘い出しは無意味か。

考え方を変えよう。相手は、盾と剣ではなく、二刀を持った者と考える。

盾で防いでいるのではなく、小刀で牽制していると考える。

つまり、お互い同じ戦法をとっている。

加えて、相手は、特殊な形状の剣を用いているとはいえ、

盾越しの攻撃には限界がある。完全に私を視界に入れる事もできないだろうし、

体勢によっては、攻撃の威力がかなり弱まることにもなる。

それに、決して広くはないこの路地裏。大物武器を自由に用いることができる環境ではない。

そして、相手は、その狭い路地裏において、最も身動きのとれない位置にいる。

さて。

私は、前田の右手方向にダッシュした。

前田は、ハードケースを壁にくっつけ、防御を固める。

だが、これで、前田の反撃は、ハードケース上部か、隙間を縫った中段、下段に絞られる。

ここから攻撃を左手側に切り替えれば、前田はハードケースを使った攻撃に転じる。

つまり、ここで前田は私の次の動作を見極めなければならない。

ここで、私を視界から外すことは命取りなのだ。

それでは前田はどこから私を見ているか。

ハードケース上部、チェロのネックの辺りである。

ここで、私が、前田の左手方向に向かいだす。

すると、前田は、私が左手方向からの攻撃に転じたと思い、ハードケースを動かした。

ここで、わずかに見えた、前田の後頭部に、小刀を投げつけた。

それを剣で弾いた前田は、ハードケースの陰になった私を一瞬見失った。

剣の軌道も見え見えだ。

私はそこから一気に駆け寄り、ハードケースごと前田を蹴った。

「ぐっ」

ハードケースと壁に挟まれた前田が声を漏らす。

そして、ハードケースを持つ前田の左手に狙いを定めた瞬間、前田が、ハードケースごと私を蹴り飛ばした。

「きゃぁっ!」

「くっ… やりおるな…」

私の小刀の一本は、前田の足下だ。

だが、これで前田の視線の動きを大体つかめた。

今度は小刀を投げつけなくとも、体捌きで前田の死角につけこむ事ができる。  

 

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