頂-ただひとり-の編-あみ-

第一話

どこかとある地方

山の中、植生のはっきりせぬ鬱蒼とした森

日が落ちて遠く、だが、夜明けまでも遠い頃

夏の気配、だが夜は寒い

もし重傷を負った者なら、体温を奪われ、生命に関わるであろう

そしてやはり傷を負った者が今まさに倒れていた

およそ時代にそぐわぬ平安の狩衣

肩に背負うは鉄砲ではなく矢筒、頭には冠

力を込め、再び立ち上がらんとするも、

体を起こすのが精一杯、その顔は端整ながら

およそ人とは違い、ただ一つの目を顔の中心に持っていた。

苦悶の表情で語りかけるは、彼の足下にいるカラス

「行け、お前の主人はそう長くはない」

表情の無いカラスは身振りで示しそして一鳴き

「主に寄り添うがたたらの使いの役目、あなたを見捨てるわけには…」

一つ目の主人は、カラスの鳴き声を遮り

「お前は生きねばならん、そして、人に伝えねばならん、

その身に降りかかる運命を…」

カラス、人間の様に頷いて

「わかりました、主よ、ですが、あなたの死を見届けさせてください」

一つの目はもう大きく見開く力を失い

「正直言うとな…このまま死ぬのは少し寂しかった…

まったく…お前だけだ、私がこんなことを言えるのは…」

カラス、うつむき

「何を言われますか、あなたが我儘を言う時を私は今まで知りません」

一つ目、笑いにならない笑いを浮かべ声でどうにか笑う

だが、すぐにそれは苦悶の声に変わる

「主よ!主!無理をなさるな…!」

「お前をここで足止めしておくわけにはいかんからな…

そろそろ…」

一つ目の瞼、力が抜け、閉じたのか閉じていないのか判別がつかず

「主!主ぃ…!」

森の奥から響く鳴き声は、周囲の町でもおそらく聞き取れたであろう

「鬼神よ…主の仇…主は望まずとも…私はやる…!

だがどうやって…?

霊獣が、その力を増す方法…

そう言えば、強力な霊力を持つ者を喰らえば、その力を得られると聞いたことがある

ならば、この国中の霊能者を喰らい続ければ、いずれは鬼神をも超える力を…?

危険かもしれん…それで上手くいく保証も無い…

だが、やってみる価値はあるだろう?

主よ、最後にあなたの我儘を聞きました

どうか私の我儘も許してはもらえませんか?」

カラスは振り向くことなく飛び去って行った

 

 

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