次の瞬間、私は何もわからなかった。

黒い人が消えた、かと思ったら、化け物が血を噴き上げて崩れ落ちたのだ!

そして、黒い人はいつの間にか、さっきいたのと反対側にいる。

つまり、黒い人は、化け物の横を通り過ぎて、その間に致命的な攻撃を加えたということだ。

一瞬で…

すごい! 人間とは思えない! いや…人間じゃないのかもしれない…

私は恐怖とか何とか色々な感情が収集もつかず、どう、今の私の状況を捉えればいいのか

全く見当もつかなかった。

「おい」

黒い人の一声で我に帰ることができた。

「今のは…一体…」

「頂の巫女ともあろう者が、今までの出来事を分析することもできんのか?

俺の当ては外れたのか?」

この人も、頂の巫女と…

「こいつは、俺と同じ、お前を食う機会を伺っていて、お前がこんな時間にこんな所をうろついていて

しかも、人間に絡まれていて、更に人目につかない場所に移動したから、人間に憑依し、

お前に襲いかかったんだ。」

「ふーん、私を…って…あなたも!?」

「そうだ、俺はお前を食いに来た。」

私は黒い人の心を読もうとしたが、やっぱり駄目だ。これもこの人が人間じゃないことを表しているのだろうか?

だけど、何となくひっかかるものがあった。

「あなた、もしかして、さっきの…」

「気付いたか?それはさすがだな。ああ、俺はさっきお前に助けられたカラスだ。

助けられたのにお前を食わなきゃならんのは、正直気が乗らんのだが、

俺の目的のためだ。せいぜいあがけ。」

「いいよ…」 私はつぶやいた。

「!? お前、今、何と?」

「いいよ、私を食べて。何か、もういいんだ。もう、生きている必要、感じなくなっちゃったから…」

すると、黒い人は困った顔をして

「…クソったれ…俺は何のためにここまで来たってんだ…

貴様、確認しておくが、霊能者ってのは、強い霊力を持つ者のことを言う。

だがな、どんな人間でも基本的には、普段持ち合わせてる霊力なんて微々たるものだ。

霊力ってのは、自然界の至る所に存在し、霊能者は、自然界の霊力を、その都度身体に蓄え、

それを上手く扱っていくものなのだ。

つまるところ、どんなに優れた霊能者と言えど、霊力を扱う気が無ければ、蓄積霊力に関しては

一般人と同じだ!

今の俺の戦いを見て、俺に勝つには強力な霊力を扱わねばならぬことはわかるだろう?

なのに、今のお前は、霊力を溜めるどころか、俺に勝手に食えと言う!

今のお前を食って何の意味がある!? 精霊である俺ならば、食った霊力は蓄えたままでいられるが、

霊能力の引き継ぎなんぞはできんのだ!

つまり、今のお前を食う価値なんざ、クソを食うにも及ばんってことだ!」

「…」

「すまん…言いすぎたな…今日ここであったことは忘れろ…

俺は別の当てを探すことにするさ…」

黒い人は振り返る。だけど、私は…

「お願い! あなたが何をしようとしているのかは知らない!

だけど、手伝わせて!」

「駄目だ、人間には危険すぎることだ。」

「あなたは、私に戦えと言った。

私に生きる意志があれば、あなたは私に食べるだけの価値を見出してくれるんでしょ?

ならば、私はあなたと共に戦って、生きる意志を持ってみせる!

そうすれば、あなたは私を…」

自分の言葉に矛盾が含まれていることは、言っている時にすぐ気付いた。

だけど、その言葉に嘘は無いことには自信があった。

「やれやれ…」

黒い人が急に小さくなった、と思ったら、カラスの姿になって、私に近づき、

私の頭に飛び乗った。

「まるでカラスの巣だな、こりゃ。」

「こっちが食べてやる。」 からかわれたのに対し、冗談で返したのはもしかしたら初めてかもしれない。

「カラスさんは、何て名前なの?」

「俺に名はねえよ、たたらのカラスに名は不要だ。」

「でも名前が無いのは私が不便だなあ…そうだ!

クァ助!

あなたの名前、クァ助ってのはどう?」

カラスは、全身で拒否の態度を示したが、私は敢えてそれを無視して、

「クァ助!決まり!今日からあなたはクァ助ね!」

「…好きに呼べ…」

クァ助はうなだれて返事をした。  

 

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