金髪の人が、私の方を見て笑い、私はどうすることもできず立ち尽くした。 金髪の人は笑いながら、近づいてくるでも無く、なのに、何かが迫ってくるような奇妙な感覚を覚えた。 「あなた、一体…」 彼は、笑い声を止め、ニタニタしながら私をじっと見た。 かと思った次の瞬間、ボコボコッという音とともに、彼の体が延びていく。 あっという間にビルの三階に顔がとどくぐらいになり、その腕も脚も、まるで人間とは違っていた。 顔は口が大きく割れ、何本も牙を覗かせ、目は爛々と赤く光り、 角のようなものが頭部側面から下向きについている。 まるで、牛と人間と、それ以外の何かを混ぜ合わせたような、醜い生き物となってしまった。 「何…これ…」 その生き物は、私を視野に入れるなり、急に襲ってきた。 「見つけたぞ!見つけたぞぉ!頂(いただき)の巫女おおおおお!」 「!?」 頂の巫女…そう聞いてその時はピンとこなかった。だがそれが私のことを言っているのであろうことは 何となくわかった。 とにかく今は悠長に考えている場合ではない。 生き物の襲撃をどうにかかわし、とにかく路地裏の奥へ逃げる。 表通りに出られないということは、おそらくここには、「あれ」が結界を張ったのだ。 結界である以上、出れるわけはない、だけど、どうにか時間を稼いでる間に、 結界を解く方法さえわかれば… だが、無情にも、この路地裏はそれほど複雑ではなく、生き物はすんなりと私を追い詰めた。 これから私はこいつに食われるのだろうか? 食われる前に彼の元々の目的を果たすつもりだろうか? ああ、なのにあまり恐怖は感じない… いつの間にか死を求めている私がそこにあった。 「やれやれ、そいつは俺の獲物だ。」 「!?」 私と生き物は声の方を見た。 そこには、全身、洋風だか和風だかわからないけど、とにかく黒ずくめで、髪を長く伸ばした 男なのか女なのかよくわからない人がいた。いや、人なのかどうかも怪しい。 何せ、目の前にはこんな化け物がいて、しかもここは結界の中なのだ。 そこに涼しい顔で涼しいセリフを言いながら入り込んでくる人がいるだろうか?
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