五月の空、流れる雲。

そして、地上には風、私達の髪がたなびく。

そいつの髪は、光に透けると、青っぽく見える気がする。

「これから、どこに行くのさ」

私は、遠ざかろうとする背中に聞いた。

そいつは、振り向いて答えた。

「さあな」

そして、お互い見つめ合う。

決して穏やかな表情では無く、お互い厳しい顔で。

そいつの隣では、白い可憐な花が咲く。

「私の生徒たぶらかして、どういうつもり?」

「人聞きの悪い事言うな。組織に押し付けられただけだ」

そう言うと、花は顔を膨らませる。

「充分わかってると思うけど、いい子だよ、泣かせるんじゃないよ」

「お互い、お前との付き合いより長いんだ、わかってるよ」

「数年付き合っただけで、女を知った気でいるなよ」

「わかってるよ」

「本当にわかってんの? あんた、意外とガキなところあるからね、そういうところは丸子君とそっくり」

「んな奴と一緒にするな!」

すると、能岡さんは

「ほんと、そっくり」

「お前まで!」

そして、三人で思いっきり笑った。

「能岡さん、別れのあいさつはしてかないのか?」

「…だって、あの子、泣いちゃうと思うし… 私も…多分名残惜しくなると思うから…」

「そっか…」

「それに、また会えると、信じてるから…」

「だな。 だけど、丸子君の方はいいのか?」

「今は、私はお邪魔かな、と」

「なるほど」

「先生は、名残惜しくなったりしないの?」

「…まー、なんというか、若い奴には勝てないってわかったからね、

 日本人男性は、大体ロリコンってのは本当だね」

「なんだと!?」波鐘はムキになって怒りだした。

「私は、別に、いいと思うよ? 愛さえあれば、年の差なんて、ね」

「…」波鐘は、何か言いたそうにしながら押し黙った。

その様子を横で見ている能岡さんは、クスクス笑っている。

「とにかく、人じゃないからって、油断して病気になったりとか、怪我したりとかするなよ?

 元気でね」

「そっちもな、酔っ払って、全裸で街中走り回る様な真似はすんなよ?」

「え? 先生、そんなことしたの?」

「えぁ!? あの時は、シャツを脱いだだけだろ!? 違った? 私、そんなこと…?」

「ほら、ひっかかった」

「貴様ぁ…」

「昔は、俺達、馬鹿なことばっかやってたな」

「そんな昔じゃないでしょ…? 何、もう若くないみたいなこと言ってんの…?」

「まあ、それもそうだ、ところで、この身体になって、やっと物をまともに食べられる様になった」

「え! おめでとう!」

「機会があったら、酒でもおごってくれよ」

「もち… 待て、私のおごり?」

「だって、俺、低賃金だし」

「まあ、収入あるだけでも驚きだわね… よく働き先あるね…」

「まあ、そこは、なんとか、な」

「しょうがないな、今度、何かごちそうするよ。 そん時は、能岡さんも連れてきな」

「ああ」

「じゃあ、元気で」

「ああ、お前もな」

「能岡さんも、何かあったら、先生に言いな」

「うん、先生、お元気で!」

そして、三人で手を高く振り合い、私は、遠くなっていく二つの背中を見送り続けた。

これが、今生の別れとなるのか、再び出会う事になるのか、私にはわからない。

だけど、私達の間を通り抜ける風が、お互い、同じ大気で繋がっているのだということを教えてくれる。

風が、遥か遠く高い空の上で一つになる様に、私達も、いずれ、再会することを願おう。  

 

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