◆ 腹に突然、衝撃が走る。 その瞬間、世界が目の前から遠ざかっていく。 段々、視界がぼやきていき、誰かが、俺の名を呼んでいる。 だけど、その声も消えていく。 俺は、死ぬのだろうか…?
… 目が覚めると、俺は、見覚えの無い天井を見つけた。 俺の身体に掛っているのは、何か高級そうな布団だ。非常に軽い。 夢なのか、あの世なのか…よくわからない。 だが、ふと、横を見ると、宮田がベッドに顔を伏せて寝ている。 ここは、宮田の部屋…なのだろうか…? そして、俺は、初めて負けた事に気付いた。 「ああ、それで、宮田の部屋に…?」 ならば… 俺が今使っているこの枕は、宮田の枕なのか? このベッド… シーツも、布団も、マットも、普段、宮田はここで寝ているのか? 部屋も、そう言えば、女の子らしい小物がたくさんある。 そうだ、宮田の部屋に初めて来てしまった。 なんとなく、枕の匂いをかいでみた。 自分の枕とは明らかに匂いが違う。 宮田の顔に近づいてみる。よく見れば、けっこう可愛い。 そして、そっと首もとの匂いをかいでみる。 枕と同じ匂いがした。 宮田の部屋だ。 俺は、宮田の部屋で、一晩を明かしてしまった。 気付けば、俺は、男物のパジャマを着ている。 宮田の親父さんのものだろうか? っていうか、誰が着せた? まさか…? そして、ズボンの中身を見てみる。 さすがに、パンツは俺のだ。 安心したような、残念なような…? 何となく、心が落ち着いてきた。 すると、自然と宮田の顔に手が伸びた。 宮田の顔をなでる。 髪もなでてみる。独特の縮れの感触が手に残る。 長い付き合いだけど、髪に触れたのは初めてだ。 枕もとに、やはり縮れた髪の毛が落ちている。 拾って、指でしごくと、つやの中に強いコシがあるのがわかった。 「宮田らしい…」なんとなくそうつぶやくと、また、宮田の顔にさわる。 普段の様子とは全く違う、脆く儚い少女の寝顔が、この世で一番愛おしいものに思えた。 そうか…俺にとって一番大事だったのは… 俺は、今までの自分の愚かさを悟り、初めて悔しさが込み上げてきた。 負けた悔しさは、もう、どうでもいい。 本当に大事なものがそこにあることに気付かなかったこと、 その大事なものが、俺のために今までしてきてくれたことに、気付かなかったこと… その悔しさで、胸がいっぱいになった。 だが、後悔は早い。こいつのために何かをしてやれる、そんな時間はたっぷりあるだろう。 「ごめんな… ありがとうな… 今度は、俺の番だから…」 そして、再び、髪をなでた。
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