季節に関係なく、海とは風の強い地帯であるが、日没のこの時間になると、ピタッと止まる。

辺りは静かになり、波の音だけが聞こえる。

フェリーに乗る人がいないこの時間帯、この港は、まるで世界から取り残されたみたいだ。

そんな港で、世界から取り残された男二人が向かい合っている。

凪いだ風の様に静かに、何の言葉も発することなく、微動だにせず。

夜の闇が降りてくる。星の姿も多くなる。

風が吹いてきた。昼間、外の世界から溜めこんだ空気を、

陸が、様々な排気を混ぜて、海に向けて吐きだし始めた。

二人の髪が、風に揺れ始める。

そして、音を立てて強い風が吹いたその瞬間、

長い間を置いて立っていた二人の距離がゼロになっている。

音は一切無く、動きも追えない。

そして、一方が静かに倒れる。

「…!」

私は、言葉を忘れてしまった。

すると、私の肩に誰かが手を置いた。

「安心しろ、手加減してある。やっぱ、波鐘はすごいや」

そんな言葉には目もくれず、私は駆けだした。

「丸子君…! 丸子君! 丸子君!!」

私は、彼の傍に座り込み、ただただ彼の名を呼び続けるだけだった。  

 

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