◆ 太陽が沈み、水平線の辺りが暗い赤の光を帯びている。 島は、黒い影となってこちらを見ている怪物の様にも見えなくはない。 波は、街明かりを反射してきらめき、コンクリートの護岸に、静かな音を残して消えていく。 下を見れば、深い闇が俺達を引きずり込もうとしている様にも見える。 間に合っているさ、俺達はもう、深い闇の中だ。 観里は、深い闇に抗う様に、白いワンピースを風に揺らす。 そして、ただ、島を見つめ、時折、帽子を手で押さえる。 バイクの音が近づいてくる。そして、背後からライトが当たり、キキッと音がする。 後ろを振り向き、「東子か」と俺は言った。 バイクのライトに背後から照らされたシルエットは、俺のよく知っている東子の姿だ。 「久しぶり。また会えるなんて、思ってもいなかった」 「俺もだ。いつ以来だ?」 「いつだったっけね? キスしたのは覚えてる?」 「したっけ?」 「… 引っかからないから、つまんないんだよな…」 「自分の生徒の前で、そういうことよく言えるな」 と言いつつ観里を見たが、特に変わった様子は無い。内心はどうか知らんが。 「とにかく、私は、あなたを愛していた、そういう認識だから」 「悪かったな、そういう方面では鈍い奴で」 「ほんとよ、能岡さんには悲しい思いさせないでね」 すると、観里は、 「そういう忠告をもっと早くしていただければ、私はもっと早く幸せになれたのですが」 「ごめんね、駄目な先生で」 「いいんですよ、そういうところ、先生らしいです。 編ちゃんも、そういうところが好きって言ってましたよ」 「まったく… そう言えば、編は?」 「今、島にいます。すぐ連れてくるって。 ところで、立ち会いは先生だけ?」 「うん。あんまり大人数になって大ごとになってもね。 それに、私の生徒のことだから、私が見届けるべきだし」 「先生が関わったら逆にマズいことになりません?」 「いいんだよ… 元々先生なんてガラじゃないんだ… これが発覚して辞めることになっても…」 「…そんなこと言わないでください… 先生は誰よりも、生徒の事を思ってくれている、先生の中の先生です」 「…あ…ありがとう… なんか、照れくさいな… でも、いいもんだな、先生冥利に尽きるよ」 すると、向こうから船がやってきた。 あれに乗っているのだろうか? 「…編や、丸子君の思考の痕跡が見える。乗ってるね」 すると、観里は驚いたように東子の方を見た。 今まで東子の能力を知らなかったらしい。 「お前の能力は、相変わらず便利だな」 「だけど、それで誰も救えないんじゃ、意味が無いけどね…」 そう言って、東子は近づく船を見ていた。
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