太陽が沈み、水平線の辺りが暗い赤の光を帯びている。

島は、黒い影となってこちらを見ている怪物の様にも見えなくはない。

波は、街明かりを反射してきらめき、コンクリートの護岸に、静かな音を残して消えていく。

下を見れば、深い闇が俺達を引きずり込もうとしている様にも見える。

間に合っているさ、俺達はもう、深い闇の中だ。

観里は、深い闇に抗う様に、白いワンピースを風に揺らす。

そして、ただ、島を見つめ、時折、帽子を手で押さえる。

バイクの音が近づいてくる。そして、背後からライトが当たり、キキッと音がする。

後ろを振り向き、「東子か」と俺は言った。

バイクのライトに背後から照らされたシルエットは、俺のよく知っている東子の姿だ。

「久しぶり。また会えるなんて、思ってもいなかった」

「俺もだ。いつ以来だ?」

「いつだったっけね? キスしたのは覚えてる?」

「したっけ?」

「… 引っかからないから、つまんないんだよな…」

「自分の生徒の前で、そういうことよく言えるな」

と言いつつ観里を見たが、特に変わった様子は無い。内心はどうか知らんが。

「とにかく、私は、あなたを愛していた、そういう認識だから」

「悪かったな、そういう方面では鈍い奴で」

「ほんとよ、能岡さんには悲しい思いさせないでね」

すると、観里は、

「そういう忠告をもっと早くしていただければ、私はもっと早く幸せになれたのですが」

「ごめんね、駄目な先生で」

「いいんですよ、そういうところ、先生らしいです。

 編ちゃんも、そういうところが好きって言ってましたよ」

「まったく… そう言えば、編は?」

「今、島にいます。すぐ連れてくるって。

 ところで、立ち会いは先生だけ?」

「うん。あんまり大人数になって大ごとになってもね。

 それに、私の生徒のことだから、私が見届けるべきだし」

「先生が関わったら逆にマズいことになりません?」

「いいんだよ… 元々先生なんてガラじゃないんだ…

 これが発覚して辞めることになっても…」

「…そんなこと言わないでください…

 先生は誰よりも、生徒の事を思ってくれている、先生の中の先生です」

「…あ…ありがとう… なんか、照れくさいな…

 でも、いいもんだな、先生冥利に尽きるよ」

すると、向こうから船がやってきた。

あれに乗っているのだろうか?

「…編や、丸子君の思考の痕跡が見える。乗ってるね」

すると、観里は驚いたように東子の方を見た。

今まで東子の能力を知らなかったらしい。

「お前の能力は、相変わらず便利だな」

「だけど、それで誰も救えないんじゃ、意味が無いけどね…」

そう言って、東子は近づく船を見ていた。  

 

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