◆ 俺は今、おそらくこれまでの人生において、一切予想していなかった事態に陥っている。 いや、数週間前から、こうなることはわかっていたのだが、 実際のところ、そんな覚悟は全くできていなかったということだ。 早い話が、目の前に、クマがいる。 一緒に来たマオは、クマの気配を感じ取るやいなや、どこかへと隠れてしまった。 まったくもって無責任である。
無責任とか何とか言っておるが、クマと戦う事は想定していた事実なはずで、 それを今更、怖気づいた上に責任をこちらに被せてくるとはどういう了見じゃろうか。 おれは、ただ、弟子の成長を、手を出さずに見守ってやるという、師としての優しさを見せただけなのじゃ。
そんな言い分はどうでもよく、とにかく、今俺にできることは… 死んだふりって確か駄目なんだっけ…? とりあえず、後ずさりして、敵意が無い事をわかってもらいたいのだが… 何と言うか、警戒心が強い方でいらっしゃる… 俺は… 俺は… 俺は食べてもうまくねえよーっ!!
あ、逃げおった。 … こっちに近づくな!
クマは、興奮して追ってくる! 俺あんたに何かしたか? やべぇ、クマ、はえぇ!
何しとるんじゃ! 修行の成果を見せる時じゃろ!
というわけで、ええいままよ! とばかりに、俺は刀を抜いた。 この日のために、マオが打ってくれた刀である。 クマが手を振りかぶる! 俺は刀でそれを払う! …払う…? 刀が曲がっちまったじゃねえか! 何故だよ!? たたらの刀ってすごいんじゃねえのかよ?
ボケ!当たり前じゃ!日本刀は、敵の攻撃を直接防いだりする様にはできとらんのじゃ!
うわやべぇ! まじやべぇ! 俺、どうなっちゃうの!?
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