◆ 病室に入ると、私は息を呑んだ。 真っ暗い病室の中に注ぎ込む月明かり。 その光の中から生まれ出た様な美しい姿。 それはまるで女神だった。 トレードマークであったポニーテールは長く伸び、腰まで達している。 純白のワンピースに負けないほどの肌の白さ。 以前から美人ではあったが、ここまでの印象は無かったはずだ。 「能岡さん… 久しぶりだね…」 「編ちゃん…! 会いに来てくれたんだ」 「学校に行かずに、一日中探してれば、驚くほど簡単に見つかるものだったんだね… 拍子抜けしちゃったよ」 「別に、隠れているわけじゃないもの。 ただ、もう、人ではない私達を見た人が驚かない様にしているだけのこと」 「見た感じ、人だけどね…」 「…まあ、今のところはね… でも、時が経てば、どうなるのかはわからない…」 「鬼になったから…?」 「それもまあ、あるけれど…」 「右角や左角の影響…?」 私がそう言うと、能岡さんは、すこし顔をこわばらせて、 「そうだね… それが一番の要因。 あの人達によって、私達は、死にかけた状態から元に戻れたんだけど… その結果、私達は人ではなくなった」 「…能岡さん、実は、あなたに頼みがあるの」 「なあに? 私にできることであれば…」 「丸子君… 覚えてるよね…」 「… うん… 彼には少しひどいことしちゃったかな… 私のこと好きだったんだよね… あなたも裏で色々がんばってくれてたんでしょ?」 「ばれてた?」 「ばればれ」 「ひどいと言えば、私もひどいんだよね… あなたには、文景さんがいるのを知ってて…」 「だけど、好きな人の為だから、がんばれたんだよね」 「… ばればれ?」 「ばればれ」 「と… とにかく… あいつにきちっと、決着つけさせてやりたいんだ。 協力…してくれない?」 「大体何やるかはわかるよ… だけど… 万一が恐い…」 「その万一が無いように、あなたが必要なんだよ!」 「『私のために争うのはやめてぇっ!』て? ガラじゃないなあ…」 「そういう発想するってことは、憧れてるんでしょ? そういうのに」 「ふふん、まあ、しょうがないかあ… 編ちゃんの願いとあれば、聞いてあげなくちゃね。 だけど、文景さん、強いよ」 「丸子君を舐めてもらっちゃ困るなあ」 「あの、丸子君がねえ…」 「ぷっ… あはは…」 そして、二人は大笑いした。 これまで、会えなかった分、たっぷり笑った、と思う。 不思議と、涙の気分ではなかった。
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