病室に入ると、私は息を呑んだ。

真っ暗い病室の中に注ぎ込む月明かり。

その光の中から生まれ出た様な美しい姿。

それはまるで女神だった。

トレードマークであったポニーテールは長く伸び、腰まで達している。

純白のワンピースに負けないほどの肌の白さ。

以前から美人ではあったが、ここまでの印象は無かったはずだ。

「能岡さん… 久しぶりだね…」

「編ちゃん…! 会いに来てくれたんだ」

「学校に行かずに、一日中探してれば、驚くほど簡単に見つかるものだったんだね…

 拍子抜けしちゃったよ」

「別に、隠れているわけじゃないもの。

 ただ、もう、人ではない私達を見た人が驚かない様にしているだけのこと」

「見た感じ、人だけどね…」

「…まあ、今のところはね… でも、時が経てば、どうなるのかはわからない…」

「鬼になったから…?」

「それもまあ、あるけれど…」

「右角や左角の影響…?」

私がそう言うと、能岡さんは、すこし顔をこわばらせて、

「そうだね… それが一番の要因。

 あの人達によって、私達は、死にかけた状態から元に戻れたんだけど…

 その結果、私達は人ではなくなった」

「…能岡さん、実は、あなたに頼みがあるの」

「なあに? 私にできることであれば…」

「丸子君… 覚えてるよね…」

「… うん… 彼には少しひどいことしちゃったかな…

 私のこと好きだったんだよね… あなたも裏で色々がんばってくれてたんでしょ?」

「ばれてた?」

「ばればれ」

「ひどいと言えば、私もひどいんだよね… あなたには、文景さんがいるのを知ってて…」

「だけど、好きな人の為だから、がんばれたんだよね」

「… ばればれ?」

「ばればれ」

「と… とにかく… あいつにきちっと、決着つけさせてやりたいんだ。

 協力…してくれない?」

「大体何やるかはわかるよ… だけど… 万一が恐い…」

「その万一が無いように、あなたが必要なんだよ!」

「『私のために争うのはやめてぇっ!』て? ガラじゃないなあ…」

「そういう発想するってことは、憧れてるんでしょ? そういうのに」

「ふふん、まあ、しょうがないかあ…

 編ちゃんの願いとあれば、聞いてあげなくちゃね。

 だけど、文景さん、強いよ」

「丸子君を舐めてもらっちゃ困るなあ」

「あの、丸子君がねえ…」

「ぷっ… あはは…」

そして、二人は大笑いした。

これまで、会えなかった分、たっぷり笑った、と思う。

不思議と、涙の気分ではなかった。  

 

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