市内某所、市内とは言っても、山と海に挟まれたこの街は、自然が多く、

山地に入れば遭難する者もいたりする。

そんな山奥に、今となっては忘れ去られた廃病院がある。

とは言っても、一部では肝試しスポットや、暴走族他ならず者のたまり場として利用している者もいる。

しかし、交通の不便な山奥とあって、そういう利用者も決して多くはない。

その廃病院内の一病室前に私はいる。

そして、背後からは私に近寄る気配。

「宮田編…久しぶりだな…」

「文景さんも… 元気…?」

「ああ、お前も元気そうだな」

「体調はね…」

「どうしてここがわかった?」

「別に…ただ、強い霊力を感じた場所に順番に当っていただけだよ」

「なるほど… 俺達は結界技術を持っているわけじゃないからな、こうやって力技の防壁を張るのが

 精一杯なんだ。だが、それでも、肝試しや暴走族の連中程度の目なら欺ける。

 多少霊感がある奴なら、少し脅かしてやればいい。

 敵意を持ったプロなら…」小刀を抜く音がした。

「別に、私は、あなた達に敵意を持ってはいない」

「それはわかっているさ、だが、目的は何だ? 組織の連中にそそのかされて来たわけじゃないよな?」

「そうじゃない、完全な私の意思。ただ、あなた達に会ってもらいたい人がいる」

「ほう…それはどんな奴だ? それこそ、何の目的で?」

「全くもって、くだらない話なんだけど…」私は、丸子君の話をした。

「…やれやれ… 本当に馬鹿げた話だ…

 だけど、俺がそいつの立場なら、当然、挑むな」

「で、今の立場のあなたはどうするの?」

「たたらの剣術…付け焼刃でどの程度のものになるのかはわからんが、面白そうだ」

「負けたら、観里さんは… まあ、あなたが負けるなんてことにはならないとは思うけど…」

「表向きくだらない余興に見えるが、実際のとこどうなんだ?

 お前の様子を見るに、『それだけじゃない』何かがありそうなんだが」

「まったく… 私って隠し事が下手なのかな…? だけど、詮索はしないでほしい…」

「わかったよ… 女の隠し事を暴く趣味はねえさ… まあ、何だ、茶ぐらい淹れる。

 入んな」

文景さんは、病室内に私を通した。  

 

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