◆ 市内某所、市内とは言っても、山と海に挟まれたこの街は、自然が多く、 山地に入れば遭難する者もいたりする。 そんな山奥に、今となっては忘れ去られた廃病院がある。 とは言っても、一部では肝試しスポットや、暴走族他ならず者のたまり場として利用している者もいる。 しかし、交通の不便な山奥とあって、そういう利用者も決して多くはない。 その廃病院内の一病室前に私はいる。 そして、背後からは私に近寄る気配。 「宮田編…久しぶりだな…」 「文景さんも… 元気…?」 「ああ、お前も元気そうだな」 「体調はね…」 「どうしてここがわかった?」 「別に…ただ、強い霊力を感じた場所に順番に当っていただけだよ」 「なるほど… 俺達は結界技術を持っているわけじゃないからな、こうやって力技の防壁を張るのが 精一杯なんだ。だが、それでも、肝試しや暴走族の連中程度の目なら欺ける。 多少霊感がある奴なら、少し脅かしてやればいい。 敵意を持ったプロなら…」小刀を抜く音がした。 「別に、私は、あなた達に敵意を持ってはいない」 「それはわかっているさ、だが、目的は何だ? 組織の連中にそそのかされて来たわけじゃないよな?」 「そうじゃない、完全な私の意思。ただ、あなた達に会ってもらいたい人がいる」 「ほう…それはどんな奴だ? それこそ、何の目的で?」 「全くもって、くだらない話なんだけど…」私は、丸子君の話をした。 「…やれやれ… 本当に馬鹿げた話だ… だけど、俺がそいつの立場なら、当然、挑むな」 「で、今の立場のあなたはどうするの?」 「たたらの剣術…付け焼刃でどの程度のものになるのかはわからんが、面白そうだ」 「負けたら、観里さんは… まあ、あなたが負けるなんてことにはならないとは思うけど…」 「表向きくだらない余興に見えるが、実際のとこどうなんだ? お前の様子を見るに、『それだけじゃない』何かがありそうなんだが」 「まったく… 私って隠し事が下手なのかな…? だけど、詮索はしないでほしい…」 「わかったよ… 女の隠し事を暴く趣味はねえさ… まあ、何だ、茶ぐらい淹れる。 入んな」 文景さんは、病室内に私を通した。
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