◆ 五月らしい風が吹き荒れる夜。 この路地裏も、風が吹く度にうめき声をあげていた。 「誰だ?」 気配を隠す気の無い背後の存在に私は声をかけた。 するとそれは姿を現した。 何かのアニメのイベントの客引きのための着ぐるみ姿で、プラカードまで持っている。 「銀? そんなバイトやってたのか」 「いやいや、中の人にちょっと交代してもらっただけだ。 別に殺しちゃいないさ、見かけない同僚の姿に多少不信感はあったろうが」 「その時も変装してたんだろ?」 「まあな、当然そいつに自分の顔を覚えられては面倒だからな」 「私に会うためにそこまでやるのか?」 「お前に会うためだからさ。同僚と会うのは、自分にとっては本当に面倒くさいことだ」 「まあ、わかるよ。ところで、何の用? 私を殺しに?」 「いやいや、お前、最近、宮田家の娘を見たか?」 「知ってるだろ? 行方不明だって。宮田家の周りをうろちょろしてる私にもさっぱり見当がつかない」 「お前は探さんのか?」 「お前が知らなくて安心した。そっちが知らないってことは、安全ってことだ」 「なるほど、無闇に探して、見つけてしまっては、逆に危険にさらす可能性がある、と」 「そういうこと」 「我々の捜査の妨害をしているのはお前か?」 「違うよ、それは宮田家とか、『あの組織』とか、色んなとこが連携してやってるこった」 「お前はそれには…?」 「私はそこまで信頼されてはいないよ」 「そうか、邪魔したな」 「もう行っちゃうの?」 「現状ではお前は、生きていても死んでいても意味が無い。 だが、生かしておけば、毒か薬かのどちらかになる。 それまでは様子を見させてもらうということだ」 「なんにせよ、私はお前らの期待通りになる気は無いよ」 「どういうことだ?」 「さあてね」 「ふん…」そして、銀は路地を出た。 私が路地を出ると、着ぐるみの姿はそこには無かった。 あの夢を多くの人が見た三日後、編は姿を消した。 一体、どこにいるのだろうか… 彼女は今、無事なのだろうか…?
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