昨晩見た夢の事など、朝の日課できれいさっぱり忘れてしまい、

朝食をとるため、ダイニングに向かった。

そこに集まる皆の顔が、やけに余所余所しい気がしたが、特に気にせず、朝食を食べ、

支度を済まして、家を出た。

学校までの道、見知らぬ人と目が合うと、皆、何かに驚いた様子で、その後すぐに目をそらす。

特にそんなことも気にはせず、学校につく。

昇降口で上履きに履き替えると、ユキがいた。

ユキは珍しく、厳しい面持ちだ。

「おはよ、何か変なものでも食べた?」

「ごめん、冗談言ってる場合じゃないよ」

「何?」

「変な事聞くけど… 変な夢、見なかった?」

「! …急に、何…?」

「変な事言うみたいだけど… 実は、私、昨晩、あなたをレイプする夢を見た」

「!」何と、私が見た夢と符合した。だけど、偶然かも…

「最初は、この間、あなたに言われた事を意識しちゃって、それで見たのかなと思った。

 だけど、さっき、教室で、男子グループが言ってた事を耳にしたの。

 そいつらも、あなたをレイプする夢を見ていた。

 そいつらは、あなたがレイプされやすい顔とかそんなわけわからない理由を勝手につけて

 納得していたみたいだけど… 気をつけてね。

 これは、絶対、あなたに何か起こるサインだよ。

 もし、何か困った事があったら、相談して」

私は、ユキの心を、読める限りは読んだ。

ユキの特性上、あまり読めはしないが、少なくとも言っている事が真実である事はわかった。

「ありがとう… 実は…」私も、見た夢の事を話した。

ユキがまるで自分の身に起きた事の様に顔をしかめる。

そして

「ありがとう、あなたが私を信頼してくれたのは初めてだよね。

 任せて、私は信頼し合う者の期待は絶対に裏切らない。だって、殺し屋だもん。

 あなたのためなら、この命は惜しくないよ」

「ありがとう。じゃあ、一つ約束して」

「うん、何でも言って」

「私の為に命をはるなんてことはやめて。私はこれ以上友達を失いたくない。

 あなた、前田が好きなんでしょ? 前田に会いたいんでしょ?

 少なくとも、前田が戻るまでは、あなたが死ぬなんてことあっては駄目だから」

その言葉を聞いたユキの目が潤み始めた。

「あ… ありがとう… 私の事友達って…

 私と堂座のこと… う… う…」

思わず、私はユキの肩に手をやり、ユキは私の胸に頭を当てた。

ユキはむせび、全身をふるわせた。

振動が私の身体にも伝わる。

「べ…別に… あなたのこと… ああ、もう…

 頼ってって言った方がこんなに泣いてちゃ、しょうがないじゃん…」

そう言うと、ユキは、顔を上げて、精一杯の笑顔を作り、目には思いっきり涙をためて、

「そうだよね… ごめん」と言った。  

 

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