◆ 帰りの船、乗るのは私だけ。 こうして、また、私の周りから、いなくなる人が一人。 だけど、今度のは違う。強い意志を持ち、自ら、身を隠す。 そして、再び現れる事を誓った。 丸子君のいる島を眺める。靄が強くかかり、徐々に姿が見えなくなっていく。 だが、靄の向こうには確かに島が存在しているのだ。 見えるか見えないか、それだけに拘れば、大事な物を見逃してしまう。 それは、よく知っている。だが、今わかった。 消えてしまった人達が、必ずしもいなくなったわけではない。 強い意志をお互いに持ち続けていれば、きっと再び巡り合えるかもしれない。 …今、誰かが、「そうだ」と言った気がした。 … 会いたければ、こっちから会いに行く事だってできるのだ。 考えてみれば、大した問題ではないじゃないか。 かつては、流刑地として使われていたというあの島も、今は、自由に行き来できる。 さて、こっちも、丸子君が戻ってくるのに備えて、能岡さんを何としても探さなきゃ。 「…私じゃ駄目なんだよなあ…」 そして、厚い靄により、島は完全に見えなくなった。 春の風は、更に強く吹き始めた。
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