「ふぁふぁいふぁ〜」 突然、気の抜けた声が聞こえた。 「あいつ、また買い食いか、仕方のない奴だな」 部屋の障子が開くと、縁側には、 おへその見える黒ずくめの服を着て、大福を頬張る、一つ目の少女が立っていた。 「あふぃふぁん…編さんではないか、久しぶりじゃのう」 それは、紛れもなく、マオさんだった。 「マオさん、久しぶり! 元気にしてた?」 「んー、日々ストレスとの戦いじゃのう。そちらも、家業があるならわかるじゃろ?」 「ええ、まあ…」 「こうして、すべすべ屋の大福を食べながら帰るのが最近の唯一の楽しみでな。 ん?そっちのチャラいのは…見たところ、編さんの学校の制服の様じゃが…彼氏か?」 一瞬、ドキッとした。 「ちげえ! 俺は、能岡を探してるんだ!」 「あー、そういうことか、止めといた方がいいと思うぞ? お主じゃ、文景殿には敵いそうもないからの」 「知るか! さっきから、鬼やらなんやらわけのわからねえことばっか言いやがって… 鬼神って奴が何をしようと、能岡には関係ねえ! 文景とかいう奴だって関係ねえ! こう見えても、家は古武術の道場だ! そう簡単に負けてたまるかよ!」 「男って馬鹿じゃのう。にしても、チャラく見えて意外と熱いハートを持ってる様じゃな そういう奴は好きじゃぞ。まあ、おれの入り込む余地はなさそうじゃがの」 と言って、マオさんはチラッと私を見た。 「それに、おれも好いた男は既におるしの」 「何!?」 マオさんの父親が食いついた。まあ、当然か。 「おっ父が、『よろしく』なんて言うから、こういうことになったのじゃぞ〜」 「あいつか… いいだろう、試してやる… あいつがマオに相応しい男かどうか…」 「ま… まあ、今の段階では、今後も続く関係かどうかってのもあるし、 そんな焦んなくてもいいとは思うぞ…? それより、チャラ男、家が道場と言ってたのう?」 「ああ、俺も一応、稽古は受けている」 「編さん、知っていたか?」 「ええ、まあ。立ち振る舞いからして、素人では無いとは思っていました。 ですが、実戦経験は極めて少ないでしょう。 高校生同士の喧嘩を実戦に含めるのなら、別かもしれませんが、 喧嘩なんてしているところは、見た事もありません」 「一応、進学校なのに、喧嘩なんてできるかよ!」 「進学校とか関係なく喧嘩はしない方がいいと思うけどね。 でも、文景さんも、強いよ。実戦経験豊富そうだし」 「望むところじゃねえか! どっちが上か思い知らせてやる!」 「ガキ」 「ああ、自分がガキなのは自覚してるさ! だけどよ! 俺は他に何の取り柄があるってんだよ!?」 「まあねえ…」 「肯定するなよ!」 と、そこへ、マオさんが割って入った。 「文景殿の戦いを、この目で見たぞ」 「本当か!? どうだった?」 「化け物の様な…いや、正に化け物の組織の精鋭相手に、互角、或いはそれ以上の戦いぶりじゃった。 組織側の、理性を失った暴走があったからこそ、文景殿は追い詰められたがのう あれに勝つには… まずは、クマを倒すことから始めた方がいいのう」 「ちょっと待て、『まずは、クマ』って… クマが最初の段階なのかよ!?」 「もちろん、素手とは言わんぞ、たたらの武術は、剣が基本じゃ」 「待て! 俺は、弟子入りするなどとは言ってないぞ!」 「こっちだって、お前を弟子にするなどとは言ってはおらん。だが、稽古はつけてやる。 もちろん、クマとも戦ってもらうぞ」 「できるわけ…」 「文景殿に勝てば、観里さんが…」 「くそったれ… 仕方ねえな… まずは、クマだな? やってやるよ!」 私は思わず、叫んでしまった。「てことは、マオさんと丸子君が一緒に暮らすってこと!?」 「そういうことになるのう。諦めるか、文景殿を超えるかしない限りは戻らないと思うが、 どうなんじゃ?」 「どうって、何がどうなのよ…?」 「ふふっ。チャラ男、お前はどうなんじゃ?」 「男に二言はねえよ! おい、宮田、心配すんな、絶対に、文景とかいう奴を超えてきてやる!」 「…だけど、休学の許可はまだ…」 「これは、休学じゃねえ! 大事な勉強をするんだよ!」 「…」呆れて物も言えなかった。
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