私達は、マオさん親子の暮らす家に招かれた。

外観は、結界の幻影により、巨大な岩の様に見えるが、実際は、古めの木造建築の様な感じだ。

だが、決して純和風ではなく、洋風の部屋もあるし、水まわりも、近代的だ。

電気もしっかり通っていて、一般的な家電や、大型テレビ、エアコン、パソコンといったものまであり、

伝統的な日本の妖怪の暮らしとしてイメージされるものとは遥かにかけ離れている。

というか、こういう物を買うための資金はどこから出ているのだろうか?

「さて、何から話そうか?」マオさんの父親が話を切り出す。

「事の始まりを」私がそう言うと、彼は、困った様な表情を浮かべた。

「俺は、事の始まりがなんなのかまではよく知らん。まあ、随分根が深い話だとは聞いているが」

「知っている事だけでもかまいません」

マオさんの父親の話によると、

能岡さんは、左角という妖怪(恐らく私が出会ったあの化け物)が、その出生に関わっており、

その、左角によって、最近、特別な因子が埋め込まれ、

その因子の調査名目で、能岡さんは、組織の実験体にさせられようとしていた。

そこで、文景さんが、能岡さんを助け出したのだが、そのために、

文景さんと、能岡さんは組織から追われる身になってしまった。

それを匿ったのがマオさん達であるが、組織の精鋭に見つかり、追い詰められ、

その時、二人は、共に持つ妖怪の因子を発動させ、鬼となった。

そして、鬼が消えて以降の二人の行方はわからない、ということである。

「信じたくはない話ではありますが、例の組織に潜入した時を思い出すと、やりかねないですね」

「そもそも、件の妖怪の目的がよくわからん。だが、鬼を発生させるのが目的の様にも見える」

「もしかして、その左角や、文景さんの中にいたという右角は、元々人間なのでは?」

「ほう? どういうことだ?」

「人間であった彼等が、精神内の鬼をわずかに覚醒させることにより、妖怪化したのでは」

「ふむ。だが、彼等の行動原理は何だ?」

「鬼は、自信が覚醒することと同時に、他者の鬼が覚醒する事も望みます。

 そして、鬼には、明確な『個』が無く、他者との融合が容易であり、また、それを望むといいます」

「つまり、わずかに鬼が覚醒しているために、文景達を鬼にすることを望んだと?」

「何故彼等が選ばれたのかはわかりません。ですが、あり得ない話では無いのでは?」

「あの日、世界中で、鬼が発生した。つまり、それだけ大量の『元人間』が暗躍した。

 それが示す意味は何だと思う?」

「…結局は、『元人間』は、鬼の望みに突き動かされていただけ…彼等の意思は、鬼全体の総意。

 そして、それは、鬼神の意思」

「クソッ、鬼神か!」クァ助が叫んだ。

「鬼神がその気になれば、今回の事よりも、もっととんでもない事を起こせるかも…

 というか、真の狙いが、あるのかもしれない」

「今回のは鬼神による実験というわけか。そして、更にとんでもない事がいずれ起きる、と?」

「おそらく、近いうちに」

「根拠は?」

「今回の事で、多くの人達は、己の中に眠る何かがざわついたはずです。

 そのざわつきが、鬼の覚醒を促すでしょう。

 ですが、ざわつきはいつまでも続くわけじゃない。

 今回の記憶が薄れないうちに何かが起きるはずです」

「だが、その何かがわからなければ、何も対策をとれんな…」  

 

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