◆ 島に着き、そのまま、森に入ると、丸子君は慌て始めた。 まあ、そりゃそうだろう。だが、これから会う人は、ここに入らねば会えない。 そう言うと、丸子君は渋々、私の後をついてきた。 マオさん独特の、緻密な術式を持った幻影結界。 結界石を四方に設置したその空間内に、その空間を基にした、幻影を造りだす。 結界内の、幻影世界と基になった世界の行き来は、術者や、その権限を委譲された者によって許可された場合か、 術式や結界石を壊した場合にのみ可能で、 術式の解読は、私の結界技術を持ってしても、相当かかるであろう。 しかも、この結界を成立させるために用いられる霊力が非常に省エネなのもすごい。 以前、この島全体を覆っていた結界は、大量の霊力を用いた力技であり、 その結界の影響が無くなり、マオさんの結界が露わになったのを見て、 その結界技術の高さに驚かされた。 この結界は、使用される霊力の少なさから、島の外側からではほとんど感知できない。 さて、空に見えた黒い影が、下降し、森の闇に紛れこむ…あいつだ。 気配が近づいてくる。 それも二つ。クァ助とマオさんか、と思った次の瞬間、 森の闇から現れたのは、クァ助と、一つ目で、左足が無く、代わりに、木製の簡易的な義足をつけた、 猿の様な、人の様な、化け物だった。 「…たたらの方…ですか? マオさんは…?」 「娘は、仕事だ。黒服の連中を知っているな? あいつらのとこで働いている」 「組織で…!? 何故?」 「特別な事情で、スカウトされたのだ」 そして、クァ助も口を開いた。 「何しに来た?」 「別に、危ない事をしに来たわけじゃない。ただ、全てを知っている人に話を聞きに来たの。 そこを通して」 「ならば、マオに直接会う必要は無い。この方も、当事者だ。俺もそうだが」 「! あなたも関わってたの!? どうして教えてくれなかったの?」 「悪かった…とは思わんな、お前に教えれば、絶対に関わろうとし、結果、悲惨な目に遭うのが見えていた。 さて、今回のこと、お前に教えるべきかどうか…」 「…約束するから、危ないことはしないって」 「…後ろにいる小僧はどうだ?」 振り返ると、丸子君が、鋭く私達を見ている。 内心はかなり恐れている様だが。 その恐怖心を看破したマオさんの父親が 「恐れを持った者の無理した暴走ってのは、ろくなことにならん。お前に出来ることは無い。 去ね」 「恐れなんて無え!」 「恐れを認めぬ者に、恐れを拭うことができるか! 貴様の様な未熟者の死は見飽きた!」 丸子君は何も言い返せない。 だけど、私は黙って帰る気は無い。 「鬼がらみの問題であるならば、私には生活がかかった大問題なんですよ。 商売柄、超界存在に関わることは多くてですね、 正しい危険認識を持つためにも、あなた方の話は聞いておかなくちゃと思いましてね」 「うまいこと考えたな」とクァ助 「尚の事、小僧にはどうでもいい話だな」 「彼、小心者ですから、正直に話せば、手を引くかと」 「俺は、小心者じゃねえ!」 丸子君の主張はむなしく響いたが、二人は話してくれる気になった様だ。
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