◆ ホームルームが終わり、皆が下校の準備を始める中、 突然、丸子君が教室を飛び出し、東子さんを追いかけて行った。 私も、静かに後ろをつけて行くと、東子さんと丸子君が、なにやら話しているのを見つけた。 丸子君はかなり真剣な表情で、東子さんの顔も険しい。 そして、二人は、生活指導室に入って行った。 私は、二人の会話を立ち聞きすることにした。 「それ、本気で言ってる?」 「ああ…」 「さっきも言ったけどねえ…」 「進路を決める上で、大事な時期… 今のうちに自分のやるべきことを見つけなければならない、だろ?」 「よく聞いてるじゃない、だったら、何で…」 「だからこそじゃねえかよ! 彼女にとっても大事な時期なんじゃねえのかよ!? いいか? これは、余計な誘惑でも惰性でもねえ! 俺は、能岡を探すために、休学する!」 「!」 思わず驚いて、声が出そうになってしまった。 まさか、丸子君が、そんなことまで考えていたなんて… そして、東子さんの声が響いた。 「馬鹿な事言うのはやめなさい! 警察だって必死に捜索したのに、見つからなかったのよ!」 嘘だ、警察が動いていないのは、私も、丸子君も知っている。 机の上に何かが置かれる様な音がした。多分、髪留めを入れていた箱だ。 警察が動いていないという、動かぬ証拠だ。 「あいつんちの近所だと、友人に教えられた辺りを探してたら、そいつがあった… 俺があいつの誕生日… あいつが行方不明になった日にやった、髪留めが入ってた箱だ… 警察は、そんな大事な証拠も見逃しちまうのかよ!?」 しばしの沈黙が流れる。そして… 「つーわけで、そろそろ行くぜ、じゃあな」 「待ちなさい! まだ話は…」 先生の話に聞く耳を持たず、丸子君は生活指導室を出た。 その顔は、決意を固めた、というよりは、罪を背負った者の様に見える。 「行っちゃうの…?」 「! 宮田… 聞いてたのか…?」 私は黙って頷いた。 「だ… 大丈夫だって… すぐ戻ってくるから…」 先の見えない不安もあり、約束のできないことを言う丸子君に、ついに私は感情を爆発させた。 「嘘だよ そんなの!」 「…んなこたねえよ…」 丸子君の弁解に聞く耳を持たず、 「能岡さんと同じだよ! 私達の前から消えていっちゃうんだ!」 そして、私は、丸子君の胸に飛びつき、ひたすら泣いた。 丸子君の心の声がはっきり聞こえる。 「まったく…どうすりゃいいってんだよ…俺は…」 「…行くのなら…私も連れてって…」 私は静かにつぶやいた。すると、丸子君は 「駄目だよ… 駄目に決まってんだろ… そんなの…」 行き場の無い二人の感情は、ただただ、こだまの様に響き合う、それだけだった。
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