ホームルームが終わり、皆が下校の準備を始める中、

突然、丸子君が教室を飛び出し、東子さんを追いかけて行った。

私も、静かに後ろをつけて行くと、東子さんと丸子君が、なにやら話しているのを見つけた。

丸子君はかなり真剣な表情で、東子さんの顔も険しい。

そして、二人は、生活指導室に入って行った。

私は、二人の会話を立ち聞きすることにした。

「それ、本気で言ってる?」

「ああ…」

「さっきも言ったけどねえ…」

「進路を決める上で、大事な時期… 今のうちに自分のやるべきことを見つけなければならない、だろ?」

「よく聞いてるじゃない、だったら、何で…」

「だからこそじゃねえかよ! 彼女にとっても大事な時期なんじゃねえのかよ!?

 いいか? これは、余計な誘惑でも惰性でもねえ!

 俺は、能岡を探すために、休学する!」

「!」

思わず驚いて、声が出そうになってしまった。

まさか、丸子君が、そんなことまで考えていたなんて…

そして、東子さんの声が響いた。

「馬鹿な事言うのはやめなさい! 警察だって必死に捜索したのに、見つからなかったのよ!」

嘘だ、警察が動いていないのは、私も、丸子君も知っている。

机の上に何かが置かれる様な音がした。多分、髪留めを入れていた箱だ。

警察が動いていないという、動かぬ証拠だ。

「あいつんちの近所だと、友人に教えられた辺りを探してたら、そいつがあった…

 俺があいつの誕生日… あいつが行方不明になった日にやった、髪留めが入ってた箱だ…

 警察は、そんな大事な証拠も見逃しちまうのかよ!?」

しばしの沈黙が流れる。そして…

「つーわけで、そろそろ行くぜ、じゃあな」

「待ちなさい! まだ話は…」

先生の話に聞く耳を持たず、丸子君は生活指導室を出た。

その顔は、決意を固めた、というよりは、罪を背負った者の様に見える。

「行っちゃうの…?」

「! 宮田… 聞いてたのか…?」

私は黙って頷いた。

「だ… 大丈夫だって… すぐ戻ってくるから…」

先の見えない不安もあり、約束のできないことを言う丸子君に、ついに私は感情を爆発させた。

「嘘だよ そんなの!」

「…んなこたねえよ…」

丸子君の弁解に聞く耳を持たず、

「能岡さんと同じだよ! 私達の前から消えていっちゃうんだ!」

そして、私は、丸子君の胸に飛びつき、ひたすら泣いた。

丸子君の心の声がはっきり聞こえる。

「まったく…どうすりゃいいってんだよ…俺は…」

「…行くのなら…私も連れてって…」

私は静かにつぶやいた。すると、丸子君は

「駄目だよ… 駄目に決まってんだろ… そんなの…」

行き場の無い二人の感情は、ただただ、こだまの様に響き合う、それだけだった。  

 

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