◆ 四月、この学園に入り、6年目。この学年で学ぶ最後の年となった。 三年のクラス替えは無いので、二年の時と変わらないメンバーだ。 ただひとりを除いては。 クラスの人数より一人分多い机。ここに座るべき人は、学園から除籍された。 その机を眺める男子生徒、始業式が始まる前から、始業式が終わり、教室に戻ってからも、 誰とも話さず、ずっとこの調子だ。 思わず私は声を掛けた。 「丸子君… もう、能岡さんは…」 「…」 やはり、丸子君は無言だ。そして、まるで、私の声は届いてない様子だった。 「…聞いてる? 丸子君、能岡さんは、除籍になったんだよ…?」 わざと、丸子君の感情を荒立てる様な事を言ってみた。 一応、丸子君の心はざわついているのが、私の能力で読みとれた。 だけど、極めて冷静を保っている。 いつの間にか、丸子君の精神は強くなった。 この時、もっと深く心を読んでいたら、また違った結果を辿っていたかもしれないし、 結局今の私ではどうしようもなかったかもしれない。 「…ごめんね…変なこと言っちゃって…」 そう言って、私は席に着いた。 ほどなくして先生が入ってくる。担任は二年から引き続き、東子さんだ。 東子さんは、厳しい顔つきで、高校三年という時期の、進路の選択における重要性を説く。 「いい? 高校三年ってのは、あなた達の人生を決める上で重要な時期なの! だから、今のうちに、自分が本当にやらなきゃいけないこと、 そういったことを本気で考えなきゃいけないの! わかる? だから、この時期に、余計な誘惑や惰性に流される様なことがあってはならない。 目の前に、大事そうな何かが転がっていたとしても、本当に、自分の人生で それが重要なのかどうか、しっかり考えなきゃ駄目! 確かに、その判断が正しいかどうかは、今のあなたたちでは難しいでしょう。 中には、間違った選択を盲信し、一生それを引きずる人だって、この世の中、たくさんいる。 間違った選択でも、やり通せば、誇れるものになることだってあるでしょうよ。 だけど、それ故に、一度選択してしまった道を、引き返すことは許されない! だからこそ、今この時、見極める目を持つことを覚えなさい! 高校三年生は、まだ若い。多少の事ならやり直しは利くけど、 これから一年、二年、進学するにせよ、社会に出るにせよ、 年と経験を積み重ねることによって、どんどんやり直しができなくなっていく! だから、この年を、失敗できる最後のチャンスと思いなさい! これを終えたら、もう、後ろを振り返る余裕は出てこないよ!」 その厳しい言葉は、特に、ある生徒に向けた言葉の様にも聞こえた。 その本人は、聞いているのか聞いていないのか、誰もいない机をずっと見つめていた。
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