丸子君と別れた後、ひとりで歩く帰り道。

黄昏時の冬の道は、壮絶な孤独感を際立たせる。

ふと、気がつくと、目の前に、影の様な気配を感じた。

この気配… 以前から能岡さんにつきまとう、あの気配…!

「誰…?」私がそう問うと、影がゆっくりと近づいてくる。

姿を現したそれは、人なのか、獣なのかよくわからない。

暗い紫色のその身体は、背中を曲げてしゃがみ込み、

足の先は二つに分かれた蹄、膝を抱える指先は鋭くとがり、顔の真ん中に巨大な目、

その上に眉毛の様に配置された、二つの目、そして、左側頭部から生えた角。

何かの絵に描かれた悪魔の様な姿である。

「能岡観里の友人…宮田家の娘か」

「知っているの…?」

「長らく化け物をやっていると、自然と耳に入る名だ」

「あなた、能岡さんとどういう…」

「あいつの出生に関わった、とだけ言っておこう。

 とにかく、これまで、あいつの支えになってくれてありがとう」

「え…あ…まあ、どういたしまして…」

「これからあいつは、人を超える領域に入る。ほとんど私のわがままが原因の様なものだが、

 これは、もう、誰にも止められぬこと… だが、それが、人類に思わぬ影響を与えることになってしまった」

「どういうこと?」

「お前が『頂』なら、それが起きた時、気がつくはずだ。

 そして、お前自身に大きな変化が訪れる。

 そして、それも、人類の未来に関わることだ」

「ちょっと…全く分からないんだけど!」

「今はわからずとも良い。頭の片隅にでも置いておけ。

 ひとつ、遠方の、気の置けぬ知人に、次に会う時が、お前の宿命を示す時だ」

「気の置けぬ知人…?」

「ちなみに、お前と私の共通の知人だ」

「何のヒントにもならないって…」

「まあ、とにかく、会った時にわかる」

「それで、能岡さんは戻ってくるの?」

「それは、何とも言えない。人を超え、この世界の理を超えた時、つまりそれは、因果を超越するということ。

 神ですらも、それから先の事はわからぬはずだ」

「人が、この世界の理を超える… 鬼に関係すること…? 彼女の鬼が解放されると…?」

「それは、正確ではないが、間違いでもない。しかし、そこまで推測できるということは、

 さすが、霊能の頂点に立つ者だけある。いや、まだ、頂点とは言えないな」

「どうせ、私は未熟者ですよ」

「いやいや、そういうことではない。いや、長話が過ぎたな、私にはまだ準備せねばならぬ事がある。

 では、さらばだ、『頂』、宮田編よ」

そして、そいつは、影の様に消えた。

一体、何だったのか…そして、能岡さんに…私に…人類に、これから起こる事とは何なのだろうか?

もう、何が何だかわからない。  

 

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