三学期が始まると、自分の将来を具体的に考える必要に迫られる様になったからか、

どことなく張りつめた雰囲気が漂い始める。

私は、家の仕事を続けるだけではあるが、一応、進学したいと思っている。

家業の役に立つかもしれないので、宗教学の分野に進んでみたいなあとか考えてはいるが。

それはともかく、新学期が始まって以来、丸子君はすっかり黙りこくっている。

なんとなく一緒にはいるが、会話は無い。さりげなく笑顔を向けたりしても、特に反応は無い。

一応、心はちゃんと読み取れるので、全く無視されているわけでは無さそうだ。

しかし、読み取った心はどれもこれも、整理がついていない状態で、正に心ここにあらずである。

ある日、帰る方向は違うが、無理やり一緒に帰ってみることにした。

もちろん、丸子君には無断である。

それでも、つきまとう私を邪険にしたりする様なことはない。

何故だか、胸が痛い。丸子君の顔をちゃんと見れない。

勝手につきまとっている私の方が、辛い気持ちになっていく。

まるで、丸子君の心境が、私の心に直接入り込んでいる様な…

そうなんだ、丸子君の悲しみは、私の悲しみなんだ。

私は、自分の愚かさに今更身震いした。

丸子君は、能岡さんと結ばれることなんてないことを私は知っていた。

文景さんという存在に気付けば、諦めてくれる、と思っていた。

だけど、まさか、こういう形で引き裂かれるだなんて…

私は、思わず足を止めた。

すると、しばらく歩いて、丸子君も足を止めた。

「… どうした?」

「私… あなたを騙していた… 能岡さんには… 好きな人がいる事を…

 私… 知ってた…」

「…」

丸子君は黙って聞いている。

そして、

「…お前は、優しすぎるんだよ、気遣ってくれなくても、ちゃんと言ってくれても良かったんだぜ?

 俺はそんなことじゃ、諦めないからな。だけど、ありがとう、気遣いには感謝する」

違う、優しいのはあなたの方だ。

私は、あなたが能岡さんを諦めてくれれば、あなたを手に入れられると思ったんだ。

口にはできない、胸にしまい込んだ言葉に、私自身が驚いた。

そして、納得した。

そうなんだ、そういうことだったんだ。

「私は… あなたが、能岡さんのことで辛そうなのが… 本当に…嫌で…辛くて…」

「ああ、辛い」

「ごめん… 力になれなくて…」

「ちげえ! 俺は、お前が辛そうにしているのが、辛いんだ!」

「…え…?」

「お前は親友だ! 親友が辛そうにしてて、俺はそれにどう応えたらいいのかわからなくて…

 ああ、もう、クソッ! どうすりゃいいんだよ!?

 とにかく! お前は何も気にする必要は無いんだ! とにかくお前は笑ってりゃいいんだよ!

 お前の笑顔は可愛くて好きだ! 能岡の次にな! じゃあな、また明日な!」

そう言って、丸子君は走り去って行った。

…親友…か… だけど、最後のあれは、どういう意味だったんだろう…?

「…可愛くて好き…」言葉に出して言ってみたら、急に恥ずかしくなった。

「可愛くて好き…」「可愛くて好き…」「可愛くて…」何度も繰り返してみた。

自分の顔が赤くなったのがはっきりわかる。

ついでに、頬もゆるむ。

心拍数も高くなる。

能岡さんのことがなければ、そのまま小躍りしていたに違いない。

だけど、もし、そういうことになっても、結局、私は能岡さんの代用品か…

別に、嫉妬は感じない。そもそも、能岡さんの代用品というポジションに収まる作戦だったのだ。

だから、何も、卑下する必要は無いのだ。だけど、何故か、むなしい。

結局、自分自身を過小評価するクセは昔のままだ。  

 

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