◆ 「おはよ」 期末試験の最終日、丸子君は、今日も不機嫌そうに外を見ている。 教科書を読むでもなく、ノートを確認するでもなく。 「ああ」 そっけない返事は、誰に向けられたものでもない、おそらく、私にも。 ふと、教科書に目を遣ると、ちゃんと閉じてないページが何か所かある。 「ちょっと見せて」「ああ」 そっけない返事すら終わらないうちから、教科書を手に取り、パラパラとページをめくる。 「また増えたね」 教科書のページのあちこちに、かたい塊の様なものができている。 まるで、木材の様なそれは、引っ掻いただけでは傷すらできない。 「返せよ」 丸子君は不機嫌な顔を見せ、教科書を奪い取った。 教科書の塊、丸子君は、不機嫌だったり、イライラしていたりすると、 近くにある物体に、小さな膨らみの様なものを作る能力がある。 その膨らみは、その物体が、そのまま膨らんだ様な、 紙なら紙の繊維、鉄なら鉄、塗装してあるものなら表面の塗料が、 その部分だけ増えた様な、そんな感じのものだ。 つまり、実質的、ものを増やす能力がある、ということであり、 使用法によってはとんでもないことになるかもしれないが、 今のところ有効な活用法が見いだせず、ただのストレス発散の方法になり下がっている。 「お前が中学の時…いなくなった奴も同じ事ができたって噂を聞いたぞ」 「…うん」 「お前、仲良かったんだって?」 「…うん」 「…お前、何で、そんな無理してるんだよ?」 「え…?」 「お前は、本当は悲しいんだろ?」 「…」 「最近、お前が無理してるのを見るのがキツいんだよ…」 「無理なんてしてないよ…」 「んなわけ…」 「そりゃあ、友達が突然いなくなるなんて、悲しいよ… だけど… でも… でも…」 涙が止まらなくなる。止めようと思ってもなかなか抑えられない。 そうなると、悲しいからとかではなく、面倒だから涙を堪えようとしなくなる。 断じて、悲しいわけじゃない。と自分に言い聞かせる。 「…悪かった…変な話しちまった…」 丸子君は再び窓の外を見る。 私はうつむきながら、涙は流れるまま、黙っている。 ああ、傍目から見たら痴話喧嘩っぽく見えたりして、と変な事を考えてしまった。
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