◆ 家につく頃には、すっかり真っ暗になっていた。 オリオン座の三つ星がくっきり見える。吐く息も白い。冬はもう、その姿を表している。 家の前に来たが、どうも素直に入れない。 門の前でうろうろする。街灯には、まだしぶとく飛ぶ蛾がうろついている。 通りかかった野良猫は、私の事を怪しがって、足を止めた後、そそくさと走り去る。 仕方が無いので、心を決めて、呼び鈴を鳴らす。その瞬間、玄関の戸が開く音がして、 誰かが走って来た。 「東子さん…」 「何やってたの!? 外は寒いから、早く!」 家の中に入ると、家族の皆が、勢ぞろいで出迎えてくれた。 そして、東子さんが私を抱き寄せた。 「心配したんだよ…!」 東子さんが震える声で言った。 「ごめんなさい… 心配かけました…」 私はただ、謝るしかできなかった。 ああ、以前にもこんなことがあったかな… 全く成長してないな、私… その時、色んな感情が私の中に流れ込んでくるのを感じた。 東子さんの、あまりの感情の昂りを、私が受け止めてしまっているのだろう。 そして、その中に、いくつもの、ちえ姉さんの顔があるのに気付いた。 そうだ、大切な人を失う悲しみは、私だけのものではない。 東子さんもまた、その悲しみを背負ってきたのだ。 私は、もう、溢れ出る涙を堪える事ができなかった。 私達は、ただひたすら、夜通し泣き続けた。 悲しいとか、悔しいとか、嬉しいとか、そういうのは、どうやら、飛び越えた涙なのだろう。 だけど、私の心には、まだ、熱い炎が灯っていた。 能岡さんは、まだ救う事が出来るかもしれない。もう、誰も失いたくはない…! 涙で曇る私は、それでも、目を見開いていた。
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