家につく頃には、すっかり真っ暗になっていた。

オリオン座の三つ星がくっきり見える。吐く息も白い。冬はもう、その姿を表している。

家の前に来たが、どうも素直に入れない。

門の前でうろうろする。街灯には、まだしぶとく飛ぶ蛾がうろついている。

通りかかった野良猫は、私の事を怪しがって、足を止めた後、そそくさと走り去る。

仕方が無いので、心を決めて、呼び鈴を鳴らす。その瞬間、玄関の戸が開く音がして、

誰かが走って来た。

「東子さん…」

「何やってたの!? 外は寒いから、早く!」

家の中に入ると、家族の皆が、勢ぞろいで出迎えてくれた。

そして、東子さんが私を抱き寄せた。

「心配したんだよ…!」

東子さんが震える声で言った。

「ごめんなさい… 心配かけました…」

私はただ、謝るしかできなかった。

ああ、以前にもこんなことがあったかな… 全く成長してないな、私…

その時、色んな感情が私の中に流れ込んでくるのを感じた。

東子さんの、あまりの感情の昂りを、私が受け止めてしまっているのだろう。

そして、その中に、いくつもの、ちえ姉さんの顔があるのに気付いた。

そうだ、大切な人を失う悲しみは、私だけのものではない。

東子さんもまた、その悲しみを背負ってきたのだ。

私は、もう、溢れ出る涙を堪える事ができなかった。

私達は、ただひたすら、夜通し泣き続けた。

悲しいとか、悔しいとか、嬉しいとか、そういうのは、どうやら、飛び越えた涙なのだろう。

だけど、私の心には、まだ、熱い炎が灯っていた。

能岡さんは、まだ救う事が出来るかもしれない。もう、誰も失いたくはない…!

涙で曇る私は、それでも、目を見開いていた。  

 

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