◆ 東の空は黒みを増し、西の空は鋭く輝く。 そんな、西の陽光を突然遮る黒い影が現れた。 「!! クァ助…!」 「何をしている、すぐに帰るんだ」 「そこをどきなさいよ、能岡さんを連れて帰るの」 「あのビルには、もう、能岡観里も、波鐘文景もいない」 「どういうこと?」 「能岡観里は、組織により実験台にされようとしていた。 それを、波鐘文景が、決死の覚悟で救いだしたのだ」 「何故、それをあなたが… そうか、マオさんのところにいるんだね?」 「お前の頼みでも、今あいつらに会わせることはできん。 互いの為だ、これからあいつらは、人である己を捨てるであろう」 「どういうこと?」 「いずれわかる。 たたらの結界を破ろうとしても無駄だぞ。 神により与えられた力とて、人である身が使っても限界があるものだ。 純粋なたたらの力には到底及ばんさ」 「…能岡さん達を見殺しにしろと?」 「逆だ、あいつらの事を案ずるならば、もう、人と関わらせることは避けねばならん」 「どうして、こういう事に…?」 「初めから定まっていたことだ」 「納得しろと?」 「今は納得せずとも、思い知らされることになる。 あいつらのことを忘れろとは言わん。 かつての少女と同じ結果にはならないことも保証する。 だから…」 「私が納得しても、他に納得しない奴だっているよ」 「ならば、そいつの勝手にさせれば良いだろう。お前が気にすることではない」 「…」 「帰るんだ、お前を心配する者は多くいるのだ」 「能岡さんや、文景さんにだって…」 「だから、あいつらは、俺に言葉を託したのだ。心配するな、また会える、そう言っていた」 「どう考えても気休めだよね、それ…」 「人は、言葉によって救うわけでも救われるわけでもない、行為によってのみ、救い、救われるのだ。 信じて待つ事ができぬのか? 友なのであろう?」 「…ほんと、あんた、たまにいいこと言うよね… デリカシーの無い鳥の脳味噌のくせして…」 「ほっとけ、所詮、人も鳥も、考えることにそう違いは無いものだ」 そして、クァ助は、どこへともなく飛んでいってしまった。 せめて、港まで送って行けっての、ほんとにデリカシーが無い。 …正直、ほっとした。 心細い気持に、すこしだけ温かさが灯った気がする。 あいつの羽をむしって、羽毛布団でも作れば、それなりのあったかさにはなるのかな、 と馬鹿げた想像をしながらの帰り道は、それほど苦にはならなかった。
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