島に近づくにつれ、徐々に雲の厚みを増す空。

海の色も濃くなっていく。

その海に、白い裂け目を入れて走るフェリーに揺られ、私達は行く。

私達は、何を話すでもなく、海を眺めていた。

能岡さんと、文景さんの二人を見ていると、心の中に、何とも言えない感情が、滲んできた。

話を聞いたわけでも、心を読んだわけでもない。

なのに、二人の秘密を、二人で海を眺める姿が、全て物語っている様な、

寂しさ、悲しさ、と言ったものを超える、一滴の雨粒の様な気持が込み上げてくる。

物語の中のヒーロー、ヒロインならば、素敵に見えるのだろう。

だが、現実に生きる人のその様な姿を見ると、それはあまりに脆く痛々しく感じるものだ。

人の不幸は何とやらと言う人間だって、本当にこういう人達に出会えば、

自分の想定する世界観のあまりの矮小さに嫌気を感じるであろう。

逆に、こういう人達が、私達の日常に暮らすことが、どれほど苦しいものであるのか、想像だにできない。

「宮田さんだっけ?」

文景さんが口を開いた。

「あの島に、御波さんがいると思った根拠は?」

「…広い意味での、『勘』…と言ったら怒りますか?」

「勘にも色々あるからなあ…」

「あなた、言いましたよね、私の事を、霊能者か?って」

「実際のところどうなんだ?」

「霊能の家系で生まれ育ち、実際に霊能者としての活動もしていますが、そういうのは信じますか?」

「…信じるも何も…っていうか、霊能者なら、俺の事見て何か思わないのか?」

「クライアント以外の人を見るのは避ける様にしてます。一応、商売道具ですし

…あなたも霊能関係の…?」

「いや、俺自身は、本来、霊能に長けてはいないんだが…おい、観里…言ってもいいのか?」

「秘密を話すって約束をしたから…」

「だったら、お前が言ったらどうだ?」

「私にはわからないこともあるし、文景さんの方が…」

「俺は、観里の後見人で、今一緒に暮らしている。

それは別にいいんだが、俺も、観里も、ある理由で家族が皆殺しになって、唯一生き残ったんだが、

その後、ある組織に拾われて…あんたや観里が通っている学校、あそこに出資してる組織、

あんたが、それがらみで入学したのなら、聞いたことあるんじゃないか?」

「その組織から教師として派遣された人が、私の知人で、しかも同居人です」

「! 本当か? その人って…」

「高見って言うんですけど…」

「…東子…?」

「東子さんを知ってるの!?」

と、思わず横を見た時、観里さんの不機嫌そうな表情が目に入った。

「私は知らないなあ…会ってみたいんだけど、あの学校で先生やってるの?」

感情を殺した能岡さんの声に恐怖を感じつつ

「高校の先生なんだけどね、見かけた事はあるはずだよ…」

「今度、一緒に挨拶に行こうよ」

「…う、うん…仲良くしてあげてね…」

文景さんと東子さん…どういう関係なのだろうか…

文景さんの心を読めば一発でわかるだろうが、何故か、その時は、やめておこうと思った。

私と能岡さん、一応、お互いの秘密を分かち合ったわけだが、

私が全ての秘密を話したわけではないのと同様、あちらにもまだ何か秘密がありそうではある。

だけど、それを暴く事に今は意味を感じない。

今は、真名ちゃんを助けること、それだけだ。  

 

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