◆ 学校が終わり、私と能岡さんは、真名ちゃんの家に行った。 「おばさん…」 「よく、来てくれたわね。ありがとう、お茶淹れるから」 「あ…おかまいなく…すぐ帰りますので…」 「いいの、いいの、ゆっくりしていきなさいな」 気丈に振る舞うその陰に、心配が滲み出ていて、痛々しい。 真名ちゃんの部屋に上がらせてもらった。 昨日、私達が散々散らかした部屋が綺麗に片付いている。 割と几帳面な性格が表れていると感じたが、そんなことを考えている場合ではない。 普段仲よくしている私達だからこそ、何か手掛かりになるものがあるのではないかと、 色々探してみたが、それらしい要素は何もない。 失意で視線が足下に落ちると、カーペットの一部が焦げているのに気付いた。 まさか、煙草ではあるまい。部屋には煙草に関係するものは何も無いし、 彼女と一緒にいても、煙草を吸う人間特有の臭気等は感じられなかった。 となると、怪しいのは、彼女が秘密にしていた能力だ。 悪い気もするが、ちょっと鎌をかけてみることにした。 カーペットの焦げているあたりに座り込み、わざと、焦げている部分を手でいじりながら部屋を見渡す。 「… ほんと、どこに行っちゃったんでしょうね…」 わざとらしく、カーペットの焦げ目とは関係ない話を切り出した。 「その焦げ目、気になりますか…」 この鎌のかけ方はあからさま過ぎでしたか… 「はい… 部屋に焦げ目なんて不自然ですから…」 「その焦げ目、昨日は無かったんですがね… まあ、あの子の事だから…」 「…おばさんは、ご存じなんですよね?」 「あなたも、ご存知なのですか? 人には言わない方がいいといつも言ってるんですが…」 能岡さんだけ、何の事かわからないような表情をしている。 その様子を見て、私と、真名ちゃんのお母さんは、その話題を止めた。 「…何かあったら、連絡しますので…」 「ごめんなさいね、馬鹿な娘の事でわざわざ…」 「いいえ、どうか、気を落とさずに…」 私達は、お互いの気を遣った挨拶を何度か交わし、帰途についた。 私と能岡さんは始終無言だった。 すると、前から… 「ユキさん…」能岡さんが声をかけた。私は無言でユキをにらむ。 「やあ」素っ頓狂な声で言う。こっちの気も知らないで… 「何の用? あなたにかまっている暇は無いよ」 「編ちゃん…」能岡さんは私の態度を諌めるが、私はそのまま 「もしかして、あなた一枚かんでる?」 「編ちゃん!」能岡さんが怒鳴る。まあ、無理も無い、ユキの…「白」の事など何も知らないのだから。 「まあ、私を疑うのもわからないでもないけど… だけど、彼女の特性を考えたら、 万一の時は、あなたのとこにちゃんと話が行くから、安心しなよ」 「それ、どういう意味?」 「学園が…例の組織が、あの子を手放すわけが無いってこと」 「前田はどうなの? 何か関係が?」 「むしろ、あんな子が来るってわかったら海外になんて行ってないよ」 「…あの子の能力ってそんなに珍しいものなの?」 「『頂』なのに知らないの?」 私は、能岡さんの方を見て 「ここで、その話を…」 「おっと、そんな話を振ってきたのは、誰だっけ?」 私は言葉を詰まらせた。 そこへ能岡さんが一歩前に出た。 「…ユキさん、あなた一体、何者?」 「あなたも、私を疑うの?」 「さっきから、私の知らないようなことばかり…一体これってどういうことなの? 編ちゃんもだよ!」 「…ごめん… こればかりは…」 「…私も秘密にしてある事が多いから… 無理に教えてとは言わないけど… それでも、私が知っていれば、皆の助けになることだってあるかもしれないじゃない?」 「…ごめん… 考えさせて…」 「そうだね、あなたにならできることがあるかもしれない」とユキが言った。 その言葉に、能岡さんが、ハッとした顔になった。 「能岡さん…?」 「もしかして、あの子は…」 能岡さんの顔つきが深刻なものに変わっていく。 「おっと、これ以上は、私が話す事じゃ無いね。 詳しい事は、宮田さんが、『独自の方法』で調べてくれるんじゃない?」 「! ちょ…」 そして、ユキは、どこへともなく去って行った。 「…編ちゃん…」 「…本当にごめん…あなたには話さなきゃならないことがたくさんあるみたい… 明日話すから… お願いだから…」 「ううん… 私も同じ…私も、話さなきゃいけない事があるから… お互い、どんな真実であろうと、友達でいようね…」 私と能岡さんは、お互い、心に拭いきれない闇の様な不安を抱えながら帰宅の途に就いた。
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